過去問・京都大学法学部(3年次編入試験・2006年度)

「凶悪犯罪が日本で増加しており、これに対応するために刑罰を強化すべきだ」という意見について論じなさい。

解答例(最終更新 2023/3/31)
 「刑罰」とは、犯罪に対する法律上の効果として、犯罪を行ったものに課せられる制裁である。刑罰の存在意義として、社会に対する警告としての一般予防論と当該犯罪者の更生を促すとする特別予防論がある。一般予防論と特別予防論は共に、目的刑論であり、刑罰は犯罪を抑止する目的で設置される性格を持つという考え方であることに違いはない。ここでは目的刑論の考え方で当該意見の妥当性を検討する。

 たとえば器物損壊事件において「突発的犯行」と背反をなす対義語は「計画的犯行」である。犯人が自己の利益と刑罰の大きさを比較衡量したか否かは別問題である。なぜなら、もしも犯行現場で犯人が、さらに傷害事件を起こすかどうか悩んだとき、その突発的犯行を思い止まった理由が比較衡量によるか否かは再度の別問題である。

 刑罰は、やってしまった犯罪行為は償う必要があることを広く一般に伝えるよいきっかけである。罪刑法定主義の我が国で、刑罰は、絶対的不定期刑は禁じらているし、無定量の罰金刑も批判がある。そのかいあって犯罪行為は償う必要があることは、償いの大きい、小さいで、広く一般になんとなく知られている。現場でさらに傷害事件を起こした場合の償いの大きさをなんとなく知っていたおかげで、思い止まることができたのであれば、抑止力は働いたと言えるし、ここで道徳心を促した(そんなに大きな償いが必要になるくらい可哀そうな目に遭わせるべきだろうかと考えることができた)可能性は重大である。

 民主主義国であり法の支配が働く我が国で、条文で刑罰を強化するには、立法府の判断が最も尊重されるべきである。その一方で、司法権の役割に従って刑罰が強化されるとき立法府や行政府の干渉を受けない(c.f.司法権の独立)。いずれにせよ刑罰強化は一つひとつの犯罪に対応すると思われる。もしも当該意見が世論を形成していれば、主権者たる国民の世論とは立法府にも司法権に対しても働きかけるものであるから、次第に刑罰は強化されることになるだろう。世論を形成するうえで、被害者や被害家族の報復的な感情論が先行し外見的強権と化すことは法の支配の観点からも是認しがたく、道徳心を促すことがあたうべくんば念頭にあることを一個人として是とする。その範囲内で刑罰を強化するのであれば賛意できる。刑罰を強化することで、冤罪を恐れるあまり、執行機関からの自衛心に発展するようであれば、なんら道徳心を促すこともできない。

参考:京大法学部編入トラスト https://note.com/law000philo/n/n6b573339d06f
トラストさん!勉強になりました!どうもありがとう!

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