マクロ経済学:どこかで間違えてIS-LM分析が運ゲーになってしまった受験生が5分でやり直す

※自分が使っている教科書・参考書の当該チャプターを開いてから読みなさい

①実際の貨幣支出を伴った
②実際の貨幣支出を伴っていない

有効需要=①実際の貨幣支出を伴った需要の総和(=実際に購買された財・サービスの総額)

Amazon.comの欲しいものリストは、定期的に同じ品物を再購入する人がその目的でつくった覚え書きでもなければ、大抵の場合にまだ買っていない品物がリストされている。②実際の貨幣支出を伴っていない需要ということになる。ミクロ経済学で需要曲線(消費者の欲望に従い数量qが取引されるときの価格p)と供給曲線(供給者の機微に従い数量qが取引されるときの価格p)を同じ座標系(数量qと価格p)で図示するときなど、まさに②実際の貨幣支出を伴っていない需要を図示したことになるわけである。

単に欲しいものの総和であれば、単に販売されているものの総和を上回ったり、下回ることもあるかもしれない。バナナ10kgが欲しいとき、8kgしか売られていなかったり、12kgも売られていたりすることはあるかもしれない。しかし実際に貨幣支出を伴った需要としてバナナ9kgと言われたら、買った側も売った側もバナナ9kgを取引したわけであるから、有効需要とは需要と供給が一致した状態に限ったことだと言い換えることもできるかもしれない。

国全体で有効需要(①の意味)を考えるとは、一国の総需要(①の意味)と総供給(①の意味)を別々にモデル化(必要であれば座標系に図示)したうえで、それらが一致するとき(現実に実現する状態)を考えるということである。

ところで「需要と供給の一致」と言ったときに、もしも店頭で売れ残ったバナナの山があれば、「供給過多ということになるのだから、需要と供給は一致しなかったとみなせる」と考えることが自然である。しかしそれは需要も供給も(②の意味)なのである。

①実際に貨幣支出を伴った総需要(Yd)をモデル化するときに、ある家計の消費(家計支出)とは穏やかに所得(家計収入)に依存することになる(借金など手段があっても収入に対して大それた出費は難しいだろう)から、一国の総消費(C)と一国の国民所得(Y)も、被説明変数-説明変数の関係性を考えることができるとされ、独立消費と限界消費性向の二つでパラメタライズされたる。そこに総投資(I)、政府支出(G)、純輸出(NX)を加えていくこともある。投資(I)さえも省略した45度線分析が珍しい理由は、有効需要の原理(ケインズ)以来、投資(I)が省略されていないことに起因するのかもしれない。

Yd = C + I
Yd = C + I + G
Yd = C + I + G + NX

C 消費
I 投資
G 政府支出
NX 純輸出

IS-LM分析は、総投資(I)を利子率(r)の一変数関数で考えるところからスタートする。45度線分析で、座標系は縦軸が(GDP)で、横軸が(国民所得)だった。学生によっては、「三面等価により(GDP=国民所得)で一致するから、限界消費性向の考え方に従って想定されるGDPは、それはそれとして、実現するのは45度線上の点でないとおかしい」という理解で落ち着いているかもしれない。ただそれは上述した内容と無矛盾であることに遅かれ早かれ気づいてもらいたい。さて、総投資(I)、政府支出(G)と純輸出(NX)は、その座標系においては縦軸の変数にも、横軸の変数にも依存しない数量であったから、定数(総需要の切片)なのである。つまりIS-LM分析で、総投資(I)が利子率(r)の一変数関数で考えたとき、考えたとしても、45度線分析の座標系では曲線の形状は何も変わらないのである。ただ切片の高低が、利子率(r)で制御されるようになったことには気が付いて欲しい。

総投資(I)を利子率(r)で制御できるようになると、有効需要が、ゆくゆくは利子率(r)の一変数関数になってくる。

大前提:総投資(I)で有効需要が決まる・・・45度線分析
小前提:利子率(r)で総投資(I)が決まる・・・総需要曲線のIS-LM分析で拡張された部分
結論:利子率(r)で有効需要が決まる・・・財市場の均衡曲線

ここで貨幣市場を考えることが、IS-LM分析の最終コーナーだ。縦軸を利子率(r)、横軸を市中貨幣量にとった座標系に、貨幣需要(①の意味:実際に市中で必要とされる貨幣量)と貨幣供給(①の意味:実際に市中で出回る貨幣量)を別々に図示したうえで、それらが一致するとき(現実に実現する状態)を考えるということである。貨幣供給が縦の直線になることを、「マネーサプライ」の一言で片づけている学生も多いかも知れないが、もちろん間違いではないが、「貨幣供給は利子率の高低に依存しない」という理解でないと、座標系に直線で図示してもよい理由の説明として不十分なものになるだろう。さらに「現に配られた国民所得に対応する貨幣供給は利子率の高低に依存しない(22/12/21追記有)」とまで言い切ることができれば完璧な説明になるが、かなり実力がないと説明しきれないかもしれない。それとはまた少し違った話として、中央銀行が金融政策で制御する(IS-LM分析モデルにおいて外生変数である)貨幣供給量と、そのうえでモデル内で決定する利子率(r:IS-LM分析モデルにおいて内生変数である)というところまでは理解できていると、実際に金融政策の話を聴く際にいい感じの土台に出来上がっているといえる(もう一息!)。

簡単なたとえ話をすると、運転手がスピードを上げて自動車のエンジン回転数が上がるほどエンジン温度は上昇する、もしも運転手が直接エンジン温度を何らかの方法で上げ下げできればエンジン温度は外生変数とみなせるかもしれないが、実際はそのようなことはできないので、スピードが外生変数で、エンジン温度はそれに依存する内生変数ということになる。

中央銀行が操作する「マネーサプライ(貨幣供給量)」
⇒※増やすとと利子率が減少
⇒利子率減少で投資増(国民所得増)

※貨幣供給量は、中央銀行が操作する変数ではあるものの、実際には国民所得に対応する変数でもある。IS-LM分析モデルで金融政策を分析するとき、まさにその暗黙の前提が暗黙のうちに内生化されているため、そこまで理解が及ぶと学習としては完成度が高いだろう。政府支出のクラウディングアウトのような事態にならないこと、その本当の、あるいは致命的な理由はそこにある。

追記(2022/12/21)
まずこのセンテンスだけを切り取って「未実証(まして未証明)のことが書かれている」と言われると非常に困る。ここではIS-LMモデルの話をしているから、そもそも利子率rによって貨幣取引(1円借りたら1+r円で返す)が制御されてるモデル(貨幣市場)であることが前提である。それについてはマクロ経済学:利子のところでも「現実の公定歩合ではない」とか「銀行等を想定した信用経済ではない」と説明をしている(・・・つもり)。
「国民所得に対応する貨幣供給」と言ったときに、「貨幣供給は国民所得の関数である(ある国民所得に対して一意に決まる)」とまでは言わなかったのは、IS-LMモデルが実際そうなっているからに他ならない。しかし「暗黙の前提」や「暗黙の内生化」と言ったのは筆者であるから「対応関係があること」を説明すると、IS-LMモデルで貨幣一単位あたり購買力の変化(物価変動)はないのだから、あくまでIS-LMモデルを説明しましたよと言ってしまえば、国民所得が高ければ高いほど、貨幣が多く配られていないと辻褄があわない(だけ)。
そのうえで関数化することを躊躇った理由こそ現実の物価変動だと思う。現実に起きている物価変動を徹底的に無視することはできないのだろう。金融政策でマネーサプライを増やしても物価の上昇が吸収することは常々観測されてきたわけだから。もっぱらその辺りを、賃金上昇が吸収するぶんにも注目をしながら、拡張したものがAD-AS分析なのかなと思う。それで物価変動の考慮と労働市場の取り付けが同時拡張されたモデルが続編になっているのかなと思う。
ところで日本大学経済学部合格者解答例:失業率が低く雇用環境が良好なのに賃金上昇率が低いのはどうしてか?では、雇用の確保が優先される実態や同一労働同一賃金の実態に迫ったが、AD-AS分析の守備範囲でもあったんだろうかと思う(まったく難しくて手が出ない)。

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