「政府承認に関する国際法上の法的効果」が中央大学法学部3年次編入試験で出題されたことがあります。政府承認とは、他国から「あなたの国を国家として承認するよ」と言われたときの意味解釈は、「複雑な国際関係の一員に加えるよ、または国際社会の一員として正当に接していくよ」というものから「地球上の当該区域をどうあれあなたたちが支配しているのですね」まで幅広いわけです。19世紀ヨーロッパの考え方としては前者(国際社会とは欧州が承認した国家の集まりですよ)が有力でしたが、今はどうなのだろうな、その辺りを考えさせられる昔のニュースから、国際法上の法的効果と国内法上の法的効果の違いを注目してきます。
【誰がベネズエラの大統領かをめぐる各国政府の反応、有力国の承認、非承認、国際問題ではないとの主張も】
2019年1月25日毎日新聞より拝借。
2019年1月23日毎日新聞より拝借。
2019年1月30日毎日新聞より拝借。
2019年1月10日、二期目の大統領就任式を終えたベネズエラのマドゥロ氏は、反米、左派、独裁といった特色をもつ。ここで独裁とは、野党が多数派を占める議会の権限を、政権派だけで構成される議会を発足させるなどして、剥奪するなどの行為を指してそう表現する。2018年5月に執り行われた大統領選では有力野党候補の出馬が禁止され、マドゥロ氏再選には正当性がないとの批判が相次いでいる。軍人出身の前大統領チャベス政権時代に副大統領だったマドゥロ氏であるが、批判は軍からも噴出しており兵士達の反乱も起きた。
大統領不在時の憲法規定を根拠に国会議長のグアイド氏が2019年1月23日、暫定大統領への就任を宣言する。グアイド氏はアメリカなど19ヵ国と協調し、大統領選のやり直しを求めてきた。グアイド氏は反政府デモで就任を宣誓、デモには数十万人が参加し、一部で治安当局との衝突もあった。
アメリカやカナダなど10ヵ国以上はグアイド氏の大統領就任を承認した。アメリカは、グアイド氏の暫定大統領への就任宣言をいち早く承認し、各国に承認を呼びかけた。英独仏など欧州諸国も再選挙が実施されなければグアイド氏を承認するとした。
アメリカはマドゥロ氏退陣に向け一層の圧力強化を宣告している。米政府は2019年1月28日、国営ベネズエラ石油に対し、アメリカへの輸出を禁止、そしてアメリカ国内の資産を凍結する経済制裁を課したと発表した。26日の国連安全保障理事会の緊急会合でも、欧米諸国はベネズエラ大統領選を「非民主主義的」と否定し、マドゥロ政権の早期退陣を求めた。各国政府の主だった反応は下記である。
アメリカ | マドゥロ政権政府は不正なマフィア国家 |
イギリス、ドイツ、フランス | 選挙実施がなければグアイド氏を承認する |
ブラジル、アルゼンチン コロンビア、カナダ オーストラリア |
グアイド氏支持 |
中国 | 内政干渉 |
ロシア | 内政干渉、紛争予防外交とはいえない |
南アフリカ | 他国の影響下で解決されるべきではない |
キューバ、ニカラグア | 反米左派政権のためマドゥロ氏支持 |
メキシコ、ウルグアイ | マドゥロ政権を国際的に孤立させるのはより危険だ |
【過去問・中央大学法学部(3年次編入試験・2018年度)】
国際的側面を含む法学一般(国際企業関係法学科)
下記の例を参考に、(1)および(2)について論じなさい(二問必答)。
日本は、1972年に、日中共同声明に調印し、中華人民共和国が「中国の唯一の合法政府」であると宣言した。これにより、日本は、それまで中華民国(台湾)が中国の合法政府であると承認していたのを、中華人民共和国に対する承認に切り替えた。また、日中共同声明の中には、次の文言が入っていた。
『中華人民共和国は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この通貨人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重・・・する。』
(1)国家性を有する領域的な実態に対して他の国家が承認を与えることは、国際法上、どのような法的効果を生じるか。
(2)ある国家が分裂している状態で、その国において対立している甲政府から乙政府へと他の国家が承認を切り替えた場合、承認国の国内で甲政府が所有していた不動産は、乙政府の所有となるか。
解答の着想
1.
現代国際社会では、民族自決原則が基本原理であり、これは国際法上の基本原則です。民族自決原則とは、各人民が自らの政治、社会体制を自由に決定できることをいいます。国家承認には、国家の成立に第三国の承認を要件とした創設的効果説、または第三国の承認を要件としない宣言的効果説とがありますが、現代国際法では宣言的効果説が妥当との見方が増えています。
2.
有力国の承認や承認数の多さが国際的な正当性を高め、同時に国内的な政権基盤が強化されることは間違いないですが、これは法的ではなく事実において承認が国家を創設する要素をもっていることを意味します。
3.
創設的効果説には、ある国家が国際社会の一員になる要件を満たしているかを、既に国際社会の一員である第三国が判断することに本来的な意味があります。特に19世紀においてはヨーロッパ諸国の承認ではじめてヨーロッパ地域外の国は国際法上の国家として成立しました。しかし現在は、たとえば国連への加盟は全加盟国の承認によらないなど、国際社会へその一員として加わることに承認の必要はありません。
4.
承認は国際法上の法的意味よりも国内法上の法的意味のほうが非常に強いです。日本は北朝鮮を国家として承認しておらず、日本国内で「朝鮮民主主義人民共和国国籍」というものは存在しません。
5.
各国がどのような政府を有するかは当該国家の主権的事項と考えられます、そのため第三国の政府承認も、民族自決原則に従えば、宣言的効果説が有力だと考えられます。
【参考:『講義 国際法 第二版』p133-p144(著:小寺彰、岩沢雄司、森日章夫)】