欧州の移民とポピュリズム

人権宣言に由来する「表現の自由」は建国の理念だ。カトリック権力の打倒に由来する「信教の自由」もまた建国の理念だ。フランスが革命で勝ち取ったリベラルな価値と、20世紀以降の移民立国フランスにおける統合政策で採用された「世俗主義」は、関係性が深い。しかしこの世俗主義(c.f.ライシテ)とは、すべての宗教の人をフランス社会に統合していく、というよりはむしろ、厳格な信仰をまもろうとするイスラム移民との間に亀裂を生んでいった。移民集団ということでただでさえ差別や偏見の対象になりやすい(c.f.社会的スティグマ化)彼らへ「共生困難」な人びとというイメージを貼り付けた。ここに表現の自由の名のもと宗教批判を是としたことで、よりネガティブなイメージが一方向的に焼き付けられていった。【参考:『移民社会フランスの危機』宮島喬】
2015年1月7日シャルリー・エブド襲撃事件は「表現の自由に対する攻撃」として受け止められた。シャルリー・エブドがフランスを代表する風刺新聞の一つだったからだ。メディアにより「文明の衝突」と拡大解釈された事件報道の裏で、しかし「表現の自由」と「イスラム」の対立構造は「反イスラム感情」の誤謬だという指摘もあった。リベラルな価値のもと差別が正当化されていると言いたいのである。リベラルな価値の殻を被ったレイシズムが断行されていると言いたいのである。【参考:「「文明の衝突」論のどこが問題か?―「シャルリー・エブド」襲撃事件を考える」菊池恵介】
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【関連する発展的な出題】獨協大学外国語学部フランス語学科(3年次編入試験・2019年度)「フランス以外の国に生まれ、現在フランスに住む」人々を「移民」と定義すると、フランスの総人口の一割を超える人々が移民であり、さらに第二・第三世代を入れれば二割に及ぶと推計されています。そして現在、フランスの政治においては、移民流入の規制を訴える政党が一定の勢力を持っています。あなたはこの主張に賛成ですか、反対ですか。移民系の人々が増加した歴史的経緯や、これらの人々が持っている文化的・宗教的背景、また近年フランスで起きた事件なども考慮に入れつつ答えなさい(抜粋)※受験なさる方は出題文は必ず御自身でもご確認ください。


2020年1月4日毎日新聞より拝借。
(引用)
2019年9月に総選挙が実施されたオーストリアで、中道右派・国民党と環境政党・緑の党が2日、連立政権を樹立すると発表した。同国で緑の党が政権入りするのは初めて。緑の党は「反移民」を主張する国民党と意見の隔たりがあったが、環境保護の公約実現のために歩み寄った形だ。首相には再び国民党のクルツ党首が就任する予定。
(中略)
オーストリアでは19年5月まで国民党と極右・自由党による右派連立政権だったが、自由党党首(当時)による汚職疑惑が発覚した。9月の前倒し総選挙で国民党と緑の党が支持を伸ばし、自由党は大敗。ポピュリスト(大衆迎合主義者)として知られるクルツ氏は連立相手を極右から左派に切り替えた。
(おわり)
欧州連合(EU)の共通課題である難民・移民問題を語るさい、ドイツ、フランスを中心に受入政策を推進する西欧と、それに反対する東欧、というEU内の亀裂は重大だ。欧州全体として反移民ナショナリズムが台頭し、もしかするとドイツ、フランスこそそのイメージが先行するかもしれないが、EUとしては紛争地域などから渡ってくる移民は受け入れる方針でルール作りが今も進められている。そこには過去何世代にも渡り移民を受け入れ、それが社会問題化したドイツ、フランスが、欧州全域で手分けして移民を受け入れてくれよと願う、そんな人情も垣間見れる。しかし東欧諸国としては、国内政治戦略的に反移民がわかりやすいカードなのだろう「NO MORE THANK YOU」となるのである、彼らは西欧ほど速やかに冷戦時代の国内政治構造から脱却できたわけではなく、そんな実情と相まって、実際にそのカードを掲げながら台頭するクルツ氏のような若きポピュリストも出現しているのだ。ただしクルツ氏の言説によれば、欧州の中央に位置するオーストリアの立地を活かしながら、そんな東西の隔たりの橋渡しとして自分自身が一定の役割を果たしたいとのことだった。そのかいあってかクルツ氏への周囲の期待は、既存のポピュリストに向けられるものと比べても、高く、情熱的なようである。今回、環境政党と連立することでオーストリア国内の「反移民」がトーンダウンすることを、東欧諸国がどう受け止めるかは注目に値するだろう。

2019年4月1日毎日新聞より拝借。

(引用)
東欧スロバキアで30日、大統領選の決選投票があり、環境活動家の弁護士、スザナ・チャプト氏(45)が約58%の得票で当選した。1993年の独立以来、同国初の女性大統領となる。スロバキアでは昨年2月、フィツォ前首相側近の疑惑を追及したジャーナリストが殺害されており、政権の汚職体質に批判が集まっていた。チャプトバ氏は政治の刷新と同性愛者の権利擁護を主張し、与党が推す候補を破った。
難民・移民への反感を背景にポピュリズム(大衆迎合主義)が勢いを増す欧州で、リベラル派であるチャプトバ氏の勝利は注目を集める。
(中略)
同国大統領は首相の任命など限定的な役割にとどまり、政治の実権は首相にある。
(おわり)

中東欧、旧共産圏のうち、ポーランド、ハンガリー、スロバキアは反リベラル国家、リベラルで民主的な政治体制ではなく、準独裁ナショナリズムが共産主義にとって代わってしまった国家として近年評価される。その一角、スロバキアでリベラル派の女性大統領が誕生する。大統領の権限は限定的であっても、今後ある国民投票に際した言説を通じて国民の政治意識に影響力を持つ点を考えれば、新たなリベラル派の潮流になるかもしれない。大統領独自の外交関係を隣国と築き、それを既存の外交関係との軋轢からまもり切れるか、前途は多難ながら、新たな時代の黎明を感じさせる。

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