過去問・同志社大学商学部(3年次編入試験・2019年度)

7.流通論
業績の低迷が続いた百貨店だが、近年特に大都市中心部でいくつかの老舗百貨店が新たな戦略を展開している。客層を絞り込み、立地や接客力などを活かして行われているこうした試みを「購買代理業」の新たな役割として分析し、評価しなさい。

解答例
これまで中高年富裕層に強かった老舗百貨店が、新宿や梅田など若者の街で、衣料品類で20代女性をターゲットにした点は特筆すべきだろう。その具体的な戦略は二刀流で、一つは専門量販店(ユニクロ、GAP、ZARA、FOREVER21など本来は百貨店のライバル達※1)を含むテナントの導入であり、もう一つはブランドの垣根を越えた自主編集売場拡大(うふふガールズ、gokai、イセタンガール、うめはんシスターズ、うめはんジェンヌなど※2)である。
さて購買代理とは、消費者のニーズに対応する商品を消費者の代わりにメーカーから調達する小売業者の性格のことだ※3。ここで消費者とは、メーカーと直接取引の機会に乏しい消費者や、自身のニーズに対応するメーカーを知らない消費者なども含まれる。老舗百貨店の二刀流の戦略は、ブランドに紐づいたニーズに対応しつつ、かつブランドに紐づかないニーズにも対応する。そのさい専門量販店を吸収する駅前巨大店舗という立地、膨大な商品数を管理する接客力とPOSは大いに活かされた※2。
そして複数の百貨店が競争的に二刀流の戦略に没頭し、新宿や梅田などは、若者の街という性格を強めた。そうした街づくり的アクションの側面は流通論的視点で好意的に評価できる。しかし既に供給過多(c.f.オーバーストア)の指摘もあり、将来的に過当競争からの空洞化も一部懸念される。

補足:
※1)百貨店の衣料品売上減はファーストリテイリング社など専門量販店の売上増と符号するため両者は本来ライバル関係にあると言える。
※2)自主編集売場やPOSは伊勢丹の得意分野だった。
※3)対義語に販売代理(メーカに代わって製品を上手に売り捌くこと)。小売業は販売代理業かつ購買代理業である。

参考:
『販売士3級ハンドブック』商工会議所
『百貨店戦国時代 塗り替えられる業界地図』川嶋幸太郎著
『百貨店の進化』伊藤元重著
「近年における百貨店の経営動向 大阪大都市圏の百貨店を中心に」佐々木保幸著

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