第1回 政治権力と主権国家

1.政治

D.イーストン(Easton)「政治とは希少資源の権威的配分である」
この世には利害の対立が絶えないがなぜであろうか。

  • 領土争い
  • 土地争い
  • 地位の争い
  • 予算の獲得競争
  • 公害企業と住民の争い

人間の欲求が無限であるのに対して、価値・資源が有限なのだ。(希少資源とはこういう意味だ)
政治:個人や集団間の意見や利害の対立を調整し、社会的な意思と秩序を形成・維持する人間の諸活動。近代以降、政治は国家を中心的な舞台として営まれる。また、妥協や調整が不可能な場合、それを妨げている者に対する強制力(権力)が発動される。ゆえに、権力は政治の一要素である。政治の営みは古今東西、人類の歴史と共にある。しかし政治学(特に受験のための政治学)は、近代以降を対象とする。近代政治の素地が17世紀ごろからゆっくり整えられていくが、制度的に確立してくるのは19世紀。したがって私たちが学ぶ政治学は基本的に、19世紀以降を対象とする近現代の政治学である。

2.権力

「人を動かす力」「人を服従させる力」
Q.力になぜ従うのか?

  • 身体や財産を守るため(c.f.物理的強制力)
  • 直接・間接に「果実」を手に入れられるから(c.f.物的報酬)
  • 内面的な動機から「正しいもの」に従おうとしてる(c.f.権力の正当性)

ふつう政治といえば、政府のあり方など多くの国民にかかわるマクロな政治を指している。しかし、「人を動かす力」(権力)があるところに政治があるとすれば、いたるところに政治はあることになる。【引用『ポリティカル・サイエンス事始め』伊藤光利 p11 ミクロな政治、ミクロな権力より】

自治会やクラス会はミクロな政治だということ。

  • 権力:他人をその意思に反して行動させる力・作用。他人を自己の意思どおりに支配し、服従させることができる力。
  • 政治権力:政治的権威、物理的強制力(合法的暴力装置)、全住民に対する意思決定伝達能力を備え、一定の地域社会の全成員が従うべきものとして成立する公的権力。
  • 国家権力:領土と人民を統治するために、国家の諸制度によって組織的に行使される政治権力。
  • ※政治権力と国家権力を分けて説明したが、近代以降の政治は国家を基本単位とする以上、ほぼ同義である。
    ※国家権力は、国内に対して(例えば徴税権、警察権など)のみならず、国外に対しても(外交権、自衛権など)発動される。

    ↓予習にどうぞ

    自由主義は、政治権力の発動を抑えることに重きをおく。権力は悪であって、権力が小さければ小さいほど自由の領域が広がる、という見方をとる。その考え方は「権力からの自由」として表現される。(中略)これに対して民主主義は、政治権力の形成・執行への民衆の参加を重視する。権力は必ずしも悪ではなく、民衆の平等を実現するためには権力の積極的な行使も肯定される。その考え方は「権力への自由」として表現されたりする。【引用『現代政治学』加茂利男・大西仁・石田徹・伊藤恭彦ら著 p42-43 自由主義と民主主義】

    ↓さらなる予習にどうぞ

    民主主義の政治は多くの人の間で合意を確保しながら決定していくものだから、手間と時間がかかる。民主政治の土台である選挙も手間と暇がかかり、費用もかかる。選挙に金がかかることが政治腐敗の源だ。【引用『ポリティカル・サイエンス事始め』伊藤光利 p14 民主主義のコストより】

    3.(近代)国家

    「国家とは正当な暴力を独占した政府のもとに組織された団体である」(ウェーバー)

    1)(近代)国家:

    • 一定の限定された領土を基礎として、そこに定住する人民が、強制力を持つ統治権のもとに法的に組織されるようになった社会。
    • 一定の領土と人民を権力によって支配し、社会秩序を形成・維持する制度・団体。

    2)近代国家の歴史的起源:

    17~18世紀のヨーロッパ絶対王政期から市民革命期にかけて緩やかに成立。それ以前の封建的中世では、教皇、国王、各地の有力諸侯、教会、自治都市などが領土領民の支配権を競う非集権的な権力構造。そうした中で君主が唯一最高かつ排他的な領域支配に成功し、統治権=主権を掌握(絶対君主の誕生)。その後、絶対君主が保持した主権は、君主制崩壊により、国家自身に帰属。

    フェーデとは、中世西ヨーロッパで、封建貴族や都市間に行われた合法的私戦。侵害された自己の権利を、裁判手続に訴えることなく、実力で回復する権利が認められていた。フェーデを禁止し警察行為を独占したことが近代国家の歴史的起源として無視できないと言われている(c.f.ゲルマン古来の血の復讐)

    3)主権 :

    • 一定の領土と人民に対する、唯一最高かつ排他的な統治権。 用例)国家主権。
    • 国家の政治運営についての最終的な意思決定権。 用例)君主主権、人民主権。

    ジャン・ボーダン(人名): 16世紀フランスの政治思想家。その著「国家論」(1576年)において、上位に権威をもたない主権国家という概念を導入。近代国家を理論的に基礎づける。主権という概念を初めて用いた。

    4)主権の三要素:

    • 1.国内に対して最高
    • 2.国外に対して独立(内政不干渉)
    • 3.主権と主権の間は平等

    ↓予習にどうぞ:内政不干渉に関連する概念として民族自決権がある。

    ウィーン会議で確認された国際社会の原則が勢力均衡とするなら、パリ講和会議で認められた重要な国際社会の原則の一つが「民族自決」である。(中略)「民族自決権」は、もともと他民族帝国内の被抑圧民族の側から提起された主張であり、当初は帝国内での自治権拡大という意味で使われていた。しかし、やがて民族自決権は国家としての独立を正当化するものとして理解されるようになった。【引用『国際政治史 主権国家体系のあゆみ』小川浩之、板橋巧巳、青野利彦ら著 p89 ヨーロッパにおける「民族自決」原理の導入とマイノリティ問題】

    5)主権国家:

    排他的な唯一最高の統治権(主権)によって一定の領土とその住民を支配し、独占的に保有する物理的強制力と官僚制に基づく行政機構によって社会秩序を作る制度(統治機構)。

    第1は(主権国家が地球上を埋め尽くしている現代では忘れられがちだが)、主権国家という単位・枠組みは、自然ないし当然のものではなく、特定の時代に特定の場所で生まれた、歴史的かつ人工的な構築物だということである。(中略)主権国家が登場したのはおおよそ17世紀であり、人類史からみれば比較的最近のことである。またその舞台は当初はヨーロッパ世界に限られていた。その後、ヨーロッパの主権国家群が、世界各地を帝国主義によって一つに結び付けていく一方で、主権国家という統治の雛型も(意図せずして)「輸出」することになった。【引用『国際政治史 主権国家体系のあゆみ』小川浩之、板橋巧巳、青野利彦ら著 p15 主権国家体系の特徴】

           

    6)国家の三要素:

    • 領土
    • 国民
    • 主権(政府)(G・イェリネック)

    4.権威と支配、支配の正統(正当)性

    ある程度納得できる政治権力に対しては、人々は自発的に服従する。人々からの自発的承認を得たとき、権力は権威として受け入れられたと言える。
    正統支配(マックス・ウェーバー):人々の自発的服従を得てなされる支配。
    ★支配の正統性:政治権力への自発的な服従を動機づける社会倫理。自発的な服従を生み出せない権力は、長続きしない。だから正統性が必要。正統性の獲得は権力に権威を与え、支配を安定させる。

    【支配の(正統性の)三類型】

    • 伝統的支配:伝統的に継承されてきた秩序だから尊重せねばならないという理由による服従を当てにした支配
    • カリスマ的支配:ある特定の人への心酔や情緒的帰依による服従を当てにした支配。
    • 合法的支配:皆で定めた適正な手続を経て行われた決定には従わねばならないという理由による服従を当てにした支配

    正当性について古典的な定式化を行ったのが、ウェーバーである。彼によれば、正当な支配には、伝統的、カリスマ的、合法的という3つの類型がある。伝統的支配は、その秩序が昔から存続するものであり、それゆえ支配関係が神聖にして永遠、不可侵であると信じられる。カリスマ的支配は、支配者個人がもつ特殊な資質(カリスマ)、すなわち超自然的な力に対する情緒的な帰依に支えられる。合法的支配は、形式的に正しい手続きによって定められた規則による支配である。【引用『政治学をつかむ』苅部直・宇野重規・中本義彦ら著 p5 正当性】

    5.政治権力と主権者

    主権の正統化(擁護)

    • 1)王権神授説:国王権力は神に由来し、君主の権力こそ主権である(ボーダン)。
    • 2)社会契約説:自然状態の危険を回避するために、人々の合意に基づいて、政治社会(国家)を形成。

    自然権を論拠に主権を説明。自然権を適切に保護するために単一の政治権力を定立。

    • 自然状態:何らかの政治体によって社会秩序がもたらされる以前の状態
    • 自然権:人が生まれながらにして持っているとされる権利。
    ホッブズ 『リヴァイアサン』(1651年)
    • 「万人の万人に対する闘争」としての自然状態。人間の本性は自己保存(生命の安全)
    • 闘争状態を克服するため、契約により政治社会(国家)を形成し、主権者を定立。
    • 絶対権力としての主権を擁護。(主権論についてはボーダンと同じ)
    • 強力な主権者に服従することで、自然状態の危険を克服。
    ロック『市民政府論(統治論)』(1690年)
    • 人民は固有の権利(自然権)を保障するため、契約により政治社会を構成。
    • 所有権保護のために国家形成を説く ⇒ロックの思想は私的所有・近代資本主義を後押し。
    • 国家権力の中で立法権が最高権力 ⇒「法の支配」の原理。
    • 権力分立:立法権と執行権(行政権)の二権分立。立法権は人民を代表する議会に。
    • 抵抗権(革命権)を容認。
    ルソー『社会契約論』(1762年)
    • 主権の担い手は主体的個々人の集合体である「人民」(人民主権)
    • 主権者である人民の理性的で普遍的な意思=一般意志 ⇒これが法・政治の基盤。
    • 主権は不可分・不可譲。人民の主権を政府に「委譲」できない ⇒直接民主制に共感。

    ↓ 予習にどうぞ

    当時の啓蒙主義的知識人たちは、国家と社会の関係を考察し、個人と支配者が相互に合理的義務(社会契約)を負っていると主張した。ところが、かなりの数の国民が自分たちにかかわることを、ある程度自分たちで決定し管理し始めると、新たな問題が見えてくる。社会を国家に結びつける(リベラルな自治を強固にする)新しい集団意識の必要性が認識されるようになったのである。こうしてリベラリズムはネイションとその「自決権」を包摂していく。政治体制の正当性が市民の同意に基づいているように、国家の正当性は外部から干渉されることなくネイションを形成したいという国民の同意に基づくべきだ。こう考えられるようになったのである。(そして市民革命に通じると続く…)【引用『政治学をつかむ』苅部直・宇野重規・中本義彦ら著 p187 ネイションの基盤は何か】

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