マクロ経済学:利子

パチンコ店は早朝に行くと当たる。早朝が一番、目利きができるからだ。これから財布の1万円が小一時間で7万円に化けると思い込んでいる早朝パチンカーからその1万円を借りるのは至難だろう。小一時間借りるにしても7倍返し(600%の利子の支払い)を要求されるかもしれない。

もう一つくらいこの手の談義をしよう。ここで素寒貧のパチンカーだけの競売所をつくり誰か一人に1万円を貸し付けよう。※競売とは、絵画、骨董品、トレーディングカードなど典型的な競売品であるが、ここでは一万円札が競売にかけらえているとする。ここで稼ぐ自信のあるパチンカーが「私に1万円を貸し付ければ必ず7万円にして返すぞ」などと言う。そして一番高い返済額を提示したパチンカーが、その金額で借り受けるとしよう。※first price auction

もしも彼が8万円に増やすことができれば最終的に8-7=1万円を儲けて帰ることができる。もしも6万円に増やすことができれば、6万円を支払い、0円を儲けて帰ることができる、このとき1万円の債務不履行は見逃してもらえるとしよう。もしも全額失ってしまったとしても7万円の債務不履行は許されるとしよう。ただし持ち逃げや過少申告は許されず射殺されてしまうとする。

さて、ここで彼から7万円を受け取る権利(債権)を証券化した債券を、貸した側が発行して再度競売にかけるとする。ここで「彼(債務者)」が、競売のタイミングで仮に3万円に所持金を増やしていて、かつ3万円以内でその債券を落札することができれば、打つのを辞めて黒字で終わることもできる。他人の手に渡ったとして、そこで彼が打つのを辞めたら、新たな債権者が落札額と彼(債務者)の所持金(上限7万円)との差分を儲けて終わり、彼は7万円以下のすべての所持金を失って終わる。いずれにせよ胴元は好きなタイミングで債券を競売にかけて胴元自身の儲けを確定させることができる。

入門的マクロ経済学で出てくる変数「利子率」とは、上述のようなマーケットマイクロストラクチャーで決まる利子率ではなく、定義された貨幣市場の(単一の)均衡利子率である。単一の均衡利子率とは、貨幣需要と貨幣供給が等しい利子率が一意に求まったとして、その利子率のことをいう。ここで気を付けたいのは中央銀行がそのような利子率を採用し、それを参考にしながら市中銀行が様々な経営判断をする現実的な世界とは異なり、どうあれ、1円を借りたら(1+r)円で返すことが約束された、つまり単一の均衡利子率で統制された世界において、まさにその「r」なのである。1円借りたら返す時には(1+r)円にして返す世界、1円貸したら返してもらう時には(1+r)円を返してもらえる世界を入門的マクロ経済学は仮想的に想定している。そのようにすることで投資関数I(r)を定義することができる(関数を定義できるとは、入力に対して出力が一意に定まると言う意味)。中央銀行が採用した利子率を参考に市中銀行が様々な経営判断をする現実的な世界観では、ここで中央銀行が採用した利子率を「r」としても、投資関数I(r)を、表記の通りrの一変数関数で定義することが困難であり、貨幣市場と財市場の同時均衡を分析するモデル(IS-LMモデル)をつくり、分析を執り行うことが困難になってしまう。別の言い方をすれば、IS-LMモデルの分析を目的として、貨幣市場を定義し、利子率「r」とは単一の貨幣需要と単一の貨幣供給が出会い貨幣を交換する際の「均衡価格」である、としたのである。このような仮想的に想定した世界を崩さずに、もしも複数の利子率を想定したければ、そのためには貨幣市場の複数を定義し、複数の貨幣需要と貨幣供給を定義しなければならないだろう。それは、複数種類の貨幣が流通している状態であり、たとえば中世中国の宋銭と明銭(流通実績のある宋銭のほうが信頼され価値が高いとみなされていた)の関係性が参考になるだろう。

現実の世界を分析するさいに援用する目的で、数学で、かつ現実をよく説明できるモデルをつくるとき、現実と似て非なる世界を(ときに一定の思想を背景にしながら)仮想するプロセスを省略することはないため、それを学習する者もそうしたプロセスをまず省略すべきではないということと、仮想した世界が当初仮想された世界に妥当であるほど理解も妥当なものになるのである。

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