過去問・中央大学経済学部(3年次編入試験・2018年度)

一般教養
(2)日本では2010年より高校の授業料無償化が進み、また大学教育の無償化についての議論も始まっている。平成28年度文科省公表値によれば、日本には777大学が存在し、また大学進学率は52.0%であり、無償化には文部科学省の試算でおおよそ3兆円以上の追加財源が必要と言われている。日本社会における諸問題を考慮しながら、大学授業料の無償化がどうあるべきか、あなたの意見を自由に論じなさい。

解答の着想
格差社会(格差是正)をテーマにする答え方が、この手の出題では主流な解答の着想である。しかしあえて少子化解決をテーマにして答えるのも面白いだろう。

1.
発展途上国の高所得世帯が多産であるのに対し、先進諸国の高所得世帯は必ずしも多産ではない。その理由として、まず第一に挙げられるのは母親の大卒による結婚の遅れ(c.f.晩婚化)は多くの先進諸国で共通する問題である。これは無視できない。しかし子どもの養育費が高いという事実も無視できないだろう。大卒-高卒の賃金格差(後述)が根強い我が国で、子どもを高所得者にするには高い教育投資のコストががかる。ここで大学教育の無償化は、大学進学後の費用を縮小しながら、子ども一人を大卒にする費用を縮小する。

2.
しかし中高一貫校、塾や予備校など大学進学までにかかる費用が存在する。これは後述する一流大学の受験で特に致命的であり、これらは入試を通過するに足る高い学力を準備し合う競争的環境(c.f.受験戦争)に由来するものだ。その競争的環境がなぜ生まれるのか、要は大学教育を受けたがる人が多く存在する理由に大卒者の生涯賃金が高卒者よりも高い労働市場の実態を指摘する(c.f. 大卒-高卒間の所得格差)。そのため、大学に進学することで高卒で就業した場合に得られる4年間の所得を諦める(c.f.機会費用)ことになったとしても、自身を大卒者として企業側に売り込む(c.f. シグナリング)ために大卒資格を得るインセンティブがある。それに加え、我が国の労働市場において大卒のシグナリングとは、どこの大学を卒業したか、あるいは卒業予定かまでが問われ、つまり大学名で有利不利があり序列も存在する(c.f.学歴社会)。より強力なシグナルを得られる一流大学ほど、受験する際の競争的環境は過当競争の様相を呈すから、中高一貫校、塾や予備校などの費用が掛かり大学進学までにかかる費用は高額になる。そして大学授業料が無償化されても、それらは高止まりする可能性が高いと思われる。

3.
大学授業料の無償化がどうあるべきか。無償化が仮に少子化解決を目指し子どもの養育費を軽減するため施策であるならば、大学進学に掛かる上述の費用も競争的環境を和らげながらコストレスにしていこうというものだ。その具体的な提案として、一定の学力考査(旧センター試験など)で受験生を絞り込んだ後に抽選会(たとえば抽選で倍率2.0になるよう調整してから最終考査するなど)を実施したい。たとえばそのようにして、無償化するうえで公共財としての性格を強めなければ、仮に少子化解決以外を目論んでいたとしても、あまり効果的ではないのではないかと考える。

【参考:『労働経済学入門 新版』(著)太田 聰一、 橘木 俊詔】

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