近年社会問題化している「ブラック企業」とは、どのような経営を行う企業のことをいうのか。また、それは、どのような背景のもとで広がりを見せたと考えられるか。
■解答例1
ブラック企業とは、大量募集した正社員を入社後に選抜したり、異常な長時間労働や残業代の不払いをしたりする企業である。ブラック企業は、労働を単なる生産に必要な要素、要は商品としてしか考えておらず、労働者に支払う賃金を自社のコストとしてしか考えていない。しかし労働者には生活がある。労働者が企業で働くのは賃金を得て生活するためである。労働者の生活が潤うことであらゆる企業の財・サービスが売れ、経済に良い循環が生まれる。労働は単なる商品ではない。完全雇用とは全ての労働者が常に何らかの職に就いている状態であり、それを実現するため雇用を創出することが企業の社会的責任である。しかし雇用が必ずしも流動的でない以上、根本的に失業を生まない努力が企業には求められ、ブラック企業とはそれに反するから社会問題なのである。これが広がった背景には、1990年代から続き今でも歯止めがかからない非正規雇用の拡大で、企業が、正規雇用をしぶるようになったことが挙げられるだろう。福利厚生の充実した正規雇用を求めるあまり、正社員の求人であれば、労働者が不利な条件であっても受け入れてしまう実態は大いに指摘できる。企業側も、非正規雇用の拡大で労働者を生産要素、ないしは商品として扱うことに慣れてしまっているのだろう。
■解答例2
ブラック企業とは、自社利益の最大化を優先し、人件費を最小に抑えたうえで長時間労働を強いるような企業であり、ブラック企業経営者らは、法に触れるような経営をも辞さない。このようなブラック企業の広がりの背景には、バブル崩壊後、数十年にも渡る不況(c.f.失われた30年)の影響がある。特にデフレ不況期に台頭した低価格サービス業は、低価格を実現するため低賃金と長時間労働、つまり労働条件の切り下げを積極的に行った。このようなブラック企業にも就職を希望する労働者がいる背景に、働き口が少なく、待遇が悪くても無職よりは働いていられる方がよいと考える労働者が後を絶たない(c.f.労働市場の買い手市場化)ことが挙げられる。ただし長時間労働や過労死は高度経済成長期から存在し、いまブラック企業が社会問題化したのは、労働者への見返りが乏しく彼らの生活が潤わないからだと考えることもできる。ブラック企業が広がったことも、いま問題視されていることも、全てバブル崩壊後の長引く不況に起因すると思われる。
■解答例3
ブラック企業を、ここでは労働市場にフリーライドする企業と定義してみよう。健全な企業は、OJTなど通じて労働者の能力開発にコストを支払ってから彼を再び労働市場に送り返す。そのような企業が大半であることをよいことに、ブラック企業は危険な長時間労働などで労働者をむしろ疲弊させてから再び労働市場に送り返すのだ。そのようなブラック企業の出現は、不況などマクロ経済的な要因で明らかに促されるものの、単一の企業に固有の問題として考えることもできる。つまり抱える仕事内容、業務に高い能力を要しない企業ほど、そもそも無い仕事は教えられないし、雇用期間中に多様な能力開発を労働者に施してもそのコストを自社で回収できないだろう。だからそうした企業は、上で定義したブラック企業的な振る舞いを労働市場でする状況に追い込まれやすいはずだ。ここでたとえば介護、運輸などは業界でみてもそのような企業の割合が多い。もしもそうした業界で需要が厚くなる、または参入規制の緩和などがあれば、ブラック企業を後々に増やす可能性がある。現に介護は高齢化で需要が増し、また運輸は参入規制緩和が90年代に執り行われた。ここに長引く平成不況が重なってブラック企業は増え、特に介護と運輸は、半ばブラック業界化してしまった。