日本型雇用慣行とその変化の方向

日本型雇用慣行とは、終身雇用、年功序列賃金、企業別組合の三つを指す。ここでは終身雇用と年功序列賃金について、その変化の方向を論じる。終身雇用とは、ある労働者が同じ企業で定年まで雇用され続けることをいう。平成バブル崩壊以降、長きにわたる不況(c.f.失われた30年)で、企業によるリストラ、業績悪化に伴う整理解雇が急速に増加していった。それをもって終身雇用は崩壊したという考え方もある。年功序列賃金とは、ある労働者が年齢や勤続年数に応じて賃金が上がっていくことをいう。こちらも長きにわたる不況で、成果報酬、業績に応じて賃金が上がっていく方式へシフトする企業が増えていった。それをもって年功序列賃金は崩壊したという考え方もある。しかし大企業を中心に一部の企業が頑なに日本型雇用慣行をまもり続けている以上、依然として日本型雇用慣行は存続しているという考え方もある。

我が国は、勤労権保護の観点からの雇用保護規制(前述の「整理解雇」との関係性は下記※)が存在して、正規雇用者の解雇が難しいとされるも、そう言った意味合いでの法令遵守企業(以後、ホワイト企業と呼ぶ※※)と、そうでない企業(以後、ブラック企業※※)が労働市場で共存している。長引く不況から、ホワイト企業は新卒採用に慎重になり、ブラック企業も新卒社員の入社後選抜を頻繁に行うようになった。若年正規雇用は不安定になっていった。実際に大勢の若者がファーストキャリア形成に苦戦する実態は、2004年度より各都道府県にジョブカフェが設置されるなどして可視化されたと思われる(c.f.若者の非正規雇用)

※とりわけ社員になんら非がないにもかかわらず経営上の事情で解雇を行う「整理解雇」については、高度の必要性、解雇回避努力、人選の合理性、 および労働組合や従業員との協議や説明などの手続きを尽くすことといった 4 要件・要素が判例法理として成立してきた。(整理解雇法理)出典:「人事管理からみた若年非正規雇用問題」荻野 勝彦 

※判例では、使用者の解雇権の行使は、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になるとしています(解雇権濫用法理)出典:厚生労働省

※公労使三者構成の労働政策審議会の議論を経て2003年に立法された労働基準法第18条の2は、整理解雇法理ではなく、解雇権濫用法理のみを忠実に条文化するものとなった。同条はその後2007年に労働契約法第16条に移動した。出典:日本型雇用システムと解雇権濫用法理の形成

※※あくまでも本稿における考察のための定義である。
※※2000年代以後、若年雇用問題の中心は非正規雇用の急激な増大にあった。このため、政策論の焦点は彼らの「正社員化」に置かれて、「正社員」の内実が問題とされることはほとんどなかった。だが、2010年代に入り、いわゆる「ブラック企業」における若年正社員の過酷な労働環境が社会問題となり、その後、政府・厚生労働省も「若者の『使い捨て』が疑われる企業」とこれを定義し各種の対策を行っている。出典:「若年雇用における雇用制度の機能不全 ─労務管理戦略の変質を中心に」今野晴貴

日本型雇用慣行を頑なに守ろうとする一部のホワイト企業も、昨今では能力に対して賃金の高い中堅・ベテラン社員の比率が高くなったことで、ついに終身雇用、年功序列を維持できなくなりつつある(c.f.50代問題)。2019年頃になるとビジネスの指導者らも日本型雇用慣行の終焉を明確にメッセージングするようになった。

ここで結論を述べると、いま我が国は、端的に能力の高い労働者が生き残る時代へと、シフトしつつある。さらに言えば自助自立して高い能力を会得する努力が奨励される時代へと、シフトしつつある。これらは、上述した成果報酬型賃金の広がりだけでなく、自律型キャリア(企業内より労働市場で高く評価されるキャリア)志向の増加や、ジョブ型雇用(業務ごとに雇用が発生する)の増加などからも観測できる。

 

参考資料

☝中学ではこう習う
(出典:『中学校の公民が1冊でしっかりわかる本』蔭山克秀)

 

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