第4回 議会政治と政治制度2 ―日本の議院内閣制と三権分立

1.一院制と両院制(二院制)

一院制の一般的特徴

  • 迅速な意思決定
  • 与党中心にダイナミックな政策形成が可能 ⇔ 一党の暴走を防止すべく多党制をとる国が多い
  • 議会運営の諸コストの節約 →小国での採用例が多い

両院制(二院制)の一般的特徴

意義:

下院:国民代表原則の貫徹、下院の優越、多数決、政党対決的
上院:再考・良識の府、党派的中立、コンセンサス、国民代表の修正

★上院(参議院)の存在意義
一般に上院は、有徳・有識者を集めて専門性や中立性を高め、議員立法や、下院のチェック、下院から回付される法案の修正などによって存在意義を示す。
下院のような政党対決ではなく、党派性を離れ、中立的な視点から審議を目指す。「良識の府」。
例)
解散のある任期4年の衆議院:政治の動向に対して柔軟な仕組み。より新しい世論を重視。被選挙権25歳以上。
解散のない任期6年の参議院:中長期的な世論を代表。硬い安定的な仕組み。被選挙権30歳以上。

議院内閣制の場合:

下院:内閣との連帯責任(内閣不信任決議権⇔首相の下院解散権)
上院:内閣と下院の強い関係から距離(議院内閣制の補正)

複雑な国家体制に適合的:

連邦国家や多民族国家で上院を地域代表や民族代表に→国民代表の補正

一院制と両院制の長短

  • 一院制の長短:迅速な意思決定と議会運営コストの節約 ⇔ 近視眼的な意思決定、少数意見の埋没
  • 両院制の長短:慎重な意思決定、少数意見の尊重 ⇔ 運営コスト大、審議の遅滞、両院対決の混乱
  • 「ねじれ国会」と両院制:両院間で議会与党が異なると、議会運営が困難に
  • 上院への懐疑:下院審議をなぞるだけなら不要、強すぎる上院への警戒感

2.衆議院と参議院

衆議院の制度的特徴

  • 下院の優越:内閣との直接的連帯=首相指名や予算承認などで参院より優越
  • 政党対決の政治:多数決の政治として、政党間競争が活発
  • 内閣との直接的連帯:短い任期や解散の存在は、常に新しい民意を反映させるため

参議院の制度的特徴

  • 第二院としての「再考の府」:高度な専門性や成熟した社会経験を生かした政策の再考
  • 党派的中立性、「良識の府」:政党間競争の多数決よりも、党派を超えたコンセンサスを重視
  • 内閣との距離:問責決議のみ。しかし解散不在の強い立場。政府の方針と衝突した際の収拾困難。

両院関係の現実

参議院への懐疑や批判

  • 参議院の「カーボンコピー」化:参院が衆院同様の党派対決の場と化し、党派的中立を旨とする「良識の府」としての機能が十分に果たされなくなった。→全国区制だった選挙制度を比例制に変えたことが一因。
  • 「参議院無用論」の台頭:衆議院と同じ採決をするだけなら、時間と金の無駄と批判される。
    ⇒審議採決の手間を減らし、与党の議案を通しやすくしたいだけとの無用論批判も強い。
  • 「強い参議院」への反発:昔は「カーボンコピー」化への批判から無用論が主張されたが、昨今では「強い参議院」による議会運営の閉塞に対するフラストレーションから、無用論が言われるようになっている。
  • 地域代表的な傾向が過剰に強くなった参議院への批判。cf. 一票の格差問題。
  • 二大政党化の潜在的可能性をもつ衆議院:小選挙区選挙により政権交代可能な大政党を生む素地。
  • 多党化し政党対決の場と化した参議院:連立政権を促す要因に。参院の党派的中立性は困難。
  • 内閣と参議院の関係:「強い参議院」、拒否権プレーヤー、「ねじれ国会」になると巨大な壁に。

    日本の議会は、衆議院と参議院という両院制をとっています。衆議院と参議院が別々に選挙をしますから、その時々の世論の流れで、衆議院はA党が、参議院ではB党が多数派ということが起こりやすい。これが「ねじれ」です。【引用『政治的思考』杉田敬 著p49「代表をめぐる競争」】

    1990年代以降における日本の選挙制度改革、国会改革、執政制度改革などの政治改革は、基本的にウェストミンスター・モデルをめざしたものであった。しかし、そのモデルの本家であるイギリスでは第二院(貴族院)の権限が比較的弱いため、第一院(庶民院)で多数派を占める政党の党首が首相になって強いリーダーシップを発揮することができてきた、とされている。このように第二院の権限一つとってみても、ウェストミンスター・モデルが前提とする政治制度と日本の政治制度には大きな違いがあるのである。【引用『現代政治学』加茂利男・大西仁・石田徹・伊藤恭彦ら著 p271 「ねじれ国会」の問題】

3.内閣と議会の連帯責任  ―内閣不信任と議会解散

議院内閣制の下では、内閣と議会(特に下院)の意思が一致することが予定されている。内閣と議会の足並みがそろわなくなれば、内閣総辞職か議会解散かという選択を余儀なくされる。
【内閣不信任決議と議会解散】

  • 衆院:内閣不信任決議権(強制力あり)
  • 参院:問責決議 (強制力なし)

    参議院の問責決議:衆議院の内閣不信任決議が内閣を対象としたものであるのに対し、参議院の問責決議は内閣総理大臣、国務大臣(閣僚)、副大臣などの個人が対象となる。可決しても法的拘束力はない。

首相の議会解散権は衆議院に対してのみ。参議院には及ばず 。

【郵政解散が投げかけた重大な問い】2005年8月、郵政民営化法案の参議院での否決を受け、小泉首相(当時)はただちに衆議院を解散(7条解散)。政府の法案に合意した衆議院を解散することで、参議院に政治的圧力をかける。
⇒参議院の権威と存在意義を脅かすのではないか? ・衆議院の賛成決議を無意味化のではないか?
⇒個別的な問題において、内閣が解散を武器に議会を揺さぶることが容認されるか?

⇒内閣と衆院の意見一致を予定。しかし内閣と参院が対立した場合、それを解消することは困難。
⇒衆議院解散の憲法的根拠:69条(衆議院の内閣不信任)解散、7条3項(天皇の国事行為)解散

★議院内閣制と議会による行政監督

  • 議院内閣制では、議会による行政統制は困難。政権与党が支配する議会が政府を監視するのは、言わば二律背反の役割。
  • 議院内閣制においては、強力な司法がない場合、政府を率いる首相は、政権与党の支持を受けて大きな自律性をもつ。

4.議院内閣制における衆議院と参議院

日本の議院内閣制は、基本的に内閣と衆議院の連帯関係に根ざす。逆に参議院は、内閣と衆議院の密接な連帯関係から距離を置き、より中立的な立場で議院内閣制を補正する任務を負う。

権限上の「衆議院の優越」:首相の指名、予算案の決議、条約の批准において衆議院は参議院に対して優越した権限を持つ。

5.日本の内閣制度と内閣総理大臣

  • 内閣:内閣総理大臣(首相)およびその他の国務大臣による行政権行使のための合議体。行政権は内閣に存在(憲法65条)。その行使に関し、国会に対して連帯して責任を負う。
  • 内閣総理大臣:行政権を保有する内閣の首長。内閣を構成する国務大臣の首班。首相。【任務】閣議の主宰、国務大臣の任免、施政方針の表明、行政各部の指揮監督、国会の解散権限の保有。
  • 国務大臣:各行政省庁の行政事務を分担管理する主任大臣。各所掌分野の責任者として行政権を分掌。
  • 閣議:内閣がその職務行使において、意思決定を行うために開催する会議。原則的に全会一致制。

6.日本の首相の指導力を縛ってきた諸要因

  • ボトムアップの日本型政策決定:首相をリーダーとする内閣のトップダウンの政策決定(英国型)ではなく、各行政省庁の官僚機構によるボトムアップの政策決定。
  • 閣議における首相権力の弱さ:各行政事務の指揮監督は閣議の決定方針に基づいて行うこととなっているが、閣議決定は全会一致が原則、そのため個別の大臣の影響力が相対的に大きくなってしまう。
  • 政府・与党二元体制:首相をリーダーとする内閣の一元的な意思決定に与党議員が従属する(英国型)のではなく、与党内にも政府とは別の政策決定プロセスが存在するため、政府は常に与党との連絡調整を余儀なくされる。
  • ※日本の国会は、制度的に政府から独立して運営される。⇒ 国会運営の主導権を握るのは与党。

  • 族議員が中心となった非公式の利益調整
  • 派閥間の権力闘争と派閥均衡人事

7.1990年代からの政治改革・行政改革の努力と成果

90年代以降の政治・行政改革(小選挙区選挙導入や内閣機能強化、中央省庁改革)により、首相および内閣官房の役割と指導力を強化。官僚政治を克服し、「官僚内閣制」から真の議院内閣制へ脱皮しようとする努力。

★内閣関係の具体的な改革★

政府内の調整、政策の企画立案と意思決定において、首相のリーダーシップを強化。

  • 閣議改革:閣議における首相の発議権を保障。内閣の重要政策に関する基本的な方針を発議する権限を法的に保障。
  • 首相の補佐・支援体制の強化
    • 内閣官房の機能強化=行政の総合調整だけでなく、重要政策の企画立案も可能に。
    • 首相補佐官など首相の政策的なアドヴァイザーを増員。
    • 内閣府の創設および内閣府特命担当大臣の設置。
    • 内閣府内に、経済財政諮問会議など政策の司令塔となる専門会議を設置可能に。
  • 各省に副大臣、大臣政務官を設置。

(おまけ)首相兼与党党首の権力強化:議員立候補者の公認権を党首に独占的に保障することで、首相兼与党党首は、公認権を盾に党内反対派を牽制し、指導力の基盤強化に成功。例えば、郵政解散(2005)のときの小泉首相。

【補論】日本の三権分立

◆立法=行政関係(議院内閣制):

立法府と行政府は均衡し、内閣と議会与党が二人三脚で国政を運営

  • 国会の内閣総理大臣指名権
  • 衆議院の内閣不信任の決議権:可決されると内閣は総辞職か衆院の解散・総選挙を選ばなければならない(69条)
  • 内閣の衆議院解散権(7条3項・69条)
  • 国会の国政調査権(62条)

◆立法=司法関係(司法の独立)

  • 国会から裁判所への過度の干渉を排除
    国会は法律を制定して裁判官を拘束(76条3項)、国会議員からなる裁判官弾劾裁判所の設置(64条)
  • 違憲立法審査権:裁判所は、国会の制定した法律の憲法適合性を審査する違憲立法審査権を有する

◆行政=司法関係(司法の独立とはいえ関係は密接)

  • 判事の行政任命 :最高裁長官は、内閣が指名、天皇が任命。その他の最高裁判事は、内閣が任命。下級裁判所の判事は、最高裁判所の指名者名簿により、内閣が任命。

    行政が司法の任命権を持つことは世界的に概ね共通。しかし任命において国会の関与が一切ない点で、日本の行政・司法関係は極めて密着。また政権交代が著しく少ない点も日本の特異性を際立たせている。

  • 判検交流:裁判官、検察官、法務省職員らの人事交流や相互の出向による業務交流。※12年、刑事部門での交流廃止。
  • 司法消極主義:日本の司法は政治部門に対する法的判断を控える傾向が強い。また内閣が裁判官人事に深く関与しているためか、行政訴訟で行政に不利な判断は滅多になく、最高裁が国に逆転勝訴をもたらすことも多い。
  • 内閣法制局の大きな存在:行政府内における法令の審査や法制に関する調査を担当。法律問題に関し内閣や各大臣に意見を表明したり、 閣議に付される法律案、政令案及び条約案を審査。「行政府における法の番人」。

司法の適正化に向けて

  • 内閣法制局の廃止論:法律(案)の審査や解釈は、国会内の法制局が行なうべきという議論。民主党内に多い議論。
  • 憲法裁判所の導入:司法の違憲立法審査を機能させるため、憲法判断を専門に行なう裁判所を設置すべきという議論。(判事任命権を国会におかないと、結局は現行制度とあまりかわらない?)
  • 行政訴訟における裁判員制度の導入:国や自治体に対する賠償請求訴訟など、行政訴訟に国民を参加させ、行政訴訟に国民の意識を反映させるべきだという議論。
  • 検察審査会の強化:検察官が独占する公訴権の行使に民意を反映させ、かつ不当な不起訴処分や起訴猶予を抑制するために有権者で構成される検察審査会。09年5月、その議決は法的に検察官を拘束するようになった。より強化すべき?
  • 国会中心主義? それとも内閣優位の議院内閣制?
    日本国憲法は、国会が国政全般にわたって中心的な地位を占める国会中心主義をとる。よって政策の決定は立法を通じて国会が行い、それに基づいて内閣が執行するというのが本来の姿。国会が唯一の立法機関であるのはその証。しかし現実には、内閣が政策立案から法案作成までとりまとめ、国会はまるで内閣提出法案の審査機関でしかなくなっている。

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