1.近代議会政治
- 議会政治:議会が国家の最高意思を決定する政治方式。
※近代議会政治の原型は中世イギリスの身分制議会(等族議会)にさかのぼる。その歴史的事実からも明らかなように、議会政治はイコール民主主義ではなかった。近代に入り、人民主権(国民主権)の原則が確立し、議会議員を選挙で選ぶという民主主義の手続きと結び合わさった時、議会制と民主主義が合体し議会制民主主義が成立したのである。(議会そのものの歴史は13世紀のイギリスにさかのぼる。としたうえで・・・)近代以前の議会は身分制議会であり、議員は貴族・僧侶・市民の各身分を代表し、しかも選出母体の意志によって拘束されていた。その当時は君主主権の時代であり、議会が行使できる権能も国王の課税に対する承諾権などの限定されていた。近代に入って、議会の地位と機能は大きく変わる。君主主権から国民主権への転換にもとづいて、議員は特定の身分を代表するのではなく、国民全体を代表するものとされるようになった。【引用『現代政治学』加茂利男・大西仁・石田徹・伊藤恭彦ら著 p99 議会と議会政治】
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間接民主制(代表民主制):国民自らが選んだ代表者(代議員)で構成される議会を通じて、間接的に国民の意思を国政に反映させる民主制の形態。議会制民主主義や代議制と同義。
それではなぜ、身分制議会がデモクラシーと結び付くことになったのか。そのひとつの要因は代表という考え方にある。この考え方の背景には、古代の都市国家においては奴隷によって生産活動に従事する必要があり、したがって市民は政治活動に専念することができないという社会的現実があった。したがって、市民が自らのものとみなすというフィクション(擬制)の必要が生じたのである。(中略)特に18世紀以降、新聞や雑誌など各種のメディアが発達し、そのようなメディアを通じて、世論(パブリック・オピニオン)も形成されるようになる。このようなメディアを通じての公共圏の形成こそ、広い国土に分散する多様な市民間の代表というフィクションに、一定のリアリティを与えたといえるだろう。【引用『政治学をつかむ』苅部直・宇野重規・中本義彦ら著 p47近代におけるデモクラシーの復活】
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多数決原理:数的多数によって議論に決着をつける決定方式。その前提として、十分な討議と少数意見の尊重が為されなくてはならない。→民主主義は多数派の専制(トクヴィル)の危険が伴うから。
しかも代議制は、多数支配としての民主主義を実質的に少数(代表)支配に変換することで、多数支配の抱える問題を緩和することができる。代表によってさまざまな国民の意見は制御可能な数にまで集約され、妥協や合意形成がより容易になる。また選ばれた少数は、一般的にいえば選んだ多数よりも徳において優れており、衆愚政治に陥る危険性がそれだけ軽減されると考えられる。もちろん有徳な代表を選ぶためには、選ぶ側に評価能力がなければならない。その能力をかつては富や職業、性別によって形式的に判断し、選挙権を制限したのである。【引用『政治学 Understanging Politics』新川敏光、大西裕、大矢根聡、田村哲樹ら著 p47-48 自由民主主義論】
↓発展的な議論
人々がメディアの伝える世の中の多数意見に同調してしまうという、順応主義(コンフォーミズム)の傾向。個人に対する国家権力からの規制が取り払われたとしても、そこで自由な活動の領域とされた社会それ自身のなかに、人を支配する強い力が働いている。そうした現象は、すでに十九世紀から、ジョン・ステュアート・ミルやアレクシ・ド・トクヴィルといった思想家によって、政治上の権利と区別された「社会の権力」、もしくは「多数者による暴政」として指摘されてきたのであった。(人々が社会の多数派の価値観によっていつのまにか染め上げられてしまい、少数派の声や、そもそもそうした”異端”の考えが存在するということ自体が忘れられる状況を、市民として政治共同体の運営に積極的に関わることのできる本当の自由、積極的自由の実現で解決をはかる考え方もある。とつづく)【引用『ヒューマニティーズ 政治学』苅部直著 p72 権力と自由】
2.議会の機能 (役割)
議会政治の三原則 (国政運営において議会が担う根本的な機能)
- 国民代表原則:
議員は各選出母体に拘束されず、全国民の意思の代表者であるという原則。国民代表の原則に基づく議会を国民議会という。身分制議会(等族議会)→ 国民議会 - 審議原則:
議決は、公開の討論を経た後に行うという原則。 - 行政監督原則:
議会が行政部の権力行使を監督し、その妥当性を吟味するという原則。→国政調査権(日本国憲法62条)日本の国会には、行政の活動全般を調べるための権限がある。
議会の具体的な諸機能(国政レベルを前提に)
- 国民代表機能:国民の意思を政治に反映させる機能
- 立法機能:代表された意思を法律に変換する機能
国家も、国民の側からの同意を得ることが必要になってくると、政府の存在、その意味合いに国民からの要求を受け入れる客体、応答的存在というものが込められるようになる。そうなるにつれて国民からの意思が直接反映される立法機関たる議会が重視される。【参考『現代政治学』加茂利男・大西仁・石田徹・伊藤恭彦ら著 p98 政府と国家】
- 審議機能(争点明示機能):公開の場で広く政治的な問題について論じる機能。
話し合うこと。すなわち討議は、民主政治においてとりわけ重要です。統治者が一人である王政の場合には、王の言葉がすなわち法ですから、話し合う必要はない。独裁の場合にも、独裁者が一人で決裁するわけですから、話し合うことなく命令するだけです。それに対して、民主政治では、話し合ってから決めるということが基本です。話し合って決めるというのは、「話し合う」と「決める」という二つの異なる要素から成り立っていますが、この二つの間に、ある種の緊張関係があることは明らかです。ずっと話し合っていれば、決めることはできません。決めるためには、どこかで話し合いを打ち切らなくてはならないからです。(ある事柄について現状を維持したい側はその事柄が争点化しないように仕向ける。そうでない側はそこに争点があることを認めさせなければならない。とつづく)【引用『政治的思考』杉田敬 著p54「話し合う」と「決める」】
- 行政府監視機能(行政監督機能):行政府による活動の適否や過不足をチェックする機能。行政統制。
決定された政策は、実際に執行されなくては意味がない。政策を執行する主体を、一般に行政と呼ぶ。私たちは日ごろの生活を営むうえで、いろいろなかたちで行政(行政機関)と接触している。自家用車を購入したことがある人なら、行政機関に提出するめんどうな書類の数々をイメージするかもしれない。車庫証明の取得、ナンバープレートの交付や車検など、その多くは関係する行政機関が行っている。(中略)行政はこのように日常生活と深い関係にあるが、それは行政が決められた政策を遂行することを通じて、市民の生活を統制したり、各種サービスを提供したりしているからである。【引用『現代政治学』加茂利男・大西仁・石田徹・伊藤恭彦ら著 p124 行政とは何か】
3.権力分立と立法・行政関係
1)権力分立:
特定の少数者による統治権力の濫用を防止するために、統治権力を機能的、あるいは地域的に分割し、相互の抑制と均衡をはかる理念・制度
垂直的権力分立:統治権を中央と地方で分割。中央集権⇔地方分権。水平的権力分立:統治権を機能で分散。三権分立。
モンテスキュー『法の精神』(1784年):立法、司法、行政の三権分立を説いた歴史的書物。
政治を制約する一つの有力なものが、すでにふれたように憲法です。なかなか変えられない憲法によって、政治の暴走に備えるのです。とりわけ大事なのが、アメリカで言えば、司法審査、日本で言えば、違憲立法審査権です。こうしたものは、議会が多数で決めた法律であっても、憲法に違反している場合には無効にします。これは、少なくとも直接的には、民主的な制度とはいえません。多数の人びとの民主的な判断を、非常に限られた数の人びとの非民主的な判断によって無効にできるということですから。(しかし、これが憲法を守る番人の役割をしている。とつづく)【引用『政治的思考』杉田敬 著p159違憲審査と政治】
2)権力分立と政府機構(統治機構)
- 議院内閣制:行政府である内閣の存立が、議会(二院制の場合は下院)の信任を得ることを必須条件とする制度。議会(下院)の多数党によって内閣を組織し、内閣は議会にのみ責任を負い、閣僚は原則的に議席をもつ(責任内閣制)。18世紀英国で確立、日本も採用 。
議院内閣制による政治運営:議会多数派が内閣に政策立案と行政監督を委任し、政治運営の効率化を図る仕組み。内閣は議会多数派である与党の代表として行動する。とすると、おのずと、立法府による行政府の監視監督には限界が伴う。
- 大統領制:国民によって選出された国家元首である大統領が、議会から独立して、行政府の長となる政治制度。三権分立の最も厳格な制度。米国で初めて実現。大統領の権限が儀礼や調停にとどまり、行政府の長としての実権が首相にある場合は、大統領制とは呼ばない。
4.議院内閣制(首相)と大統領制(大統領)の比較
議院内閣制(における首相)
- 議院内閣制は、内閣を結節点として立法権と行政権が融合している。
→一般に議会多数党の党首が首相になる。政権党(与党)との連携が良好ならば、首相は内閣と議会の双方で指導力を発揮でき、安定した政治運営ができる。 - 内閣には法案提出権がある。日本では成立する法案の8割近くが内閣提出法案。⇔議員提出法案
- 議会の不信任決議で内閣総辞職に追い込まれることもあるが、逆に首相(内閣)は議会解散権をもつ。
大統領制(における大統領):
- 大統領と議会は完全に独立。議会の弾劾裁判による以外、大統領の地位は任期満了まで保証される。
→大統領は圧倒的な行政権力を保持し行使できる。 ※行政権は大統領個人に属する - 立法勧告はできても法案提出権はない。(法案への拒否権はあるが、議会の3分の2の再議決で成立)
- 大統領の出身政党と議会の多数党が異なる場合、大統領の指導力は大きく低下する可能性がある。
5.議会のタイプと変換能力
- 変換型議会:国民の要求を議会が法律や政策に変換するため、各議員が政策立案の主人公となる議会。
→政策形成の主役は個々の議員。議員個人が活発に政策論争。多元的・分権的な政策決定。大統領制での議会に多い。(法案提出権を個々の議員全員がもつ場合、)議員は自分の支持者の利益を代弁するために、さまざまな法案を議場に持ち込む。そうなると、審議に多大な時間を費やすことになるのは容易に想像がつくであろう。個々の議員が法案を出してよいとなれば、多数派政党もまとまって行動するとは限らない。多数派に属する議員たちも、支持者へのアピールの必要から、政党との相談なしに法案提出を図るであろう。【引用『政治学 Understanging Politics』新川敏光、大西裕、大矢根聡、田村哲樹ら著 p95 議会(2)-提案と審議】
- アリーナ型議会:与野党が次の選挙を意識しつつ、自らの政策を競い合う討議の場としての議会。
→政策形成の主役は内閣。与野党間で政党単位の政策論争。集権的な政策決定 。議院内閣制での議会に多い。多数派政党のみが法案提出権をもつ場合、議会での審議は、法案を修正するという点では、あまり意味をもたない。多数派政党が提案する以上、その法案はまず間違いなく可決される。少数派は法案の問題点や欠点を有権者にアピールする場として議場を活用するしかない。【引用『政治学 Understanging Politics』新川敏光、大西裕、大矢根聡、田村哲樹ら著 p95 議会(2)-提案と審議】
★立法機能を果たす点で両者は同じだが、変換型では、議会における立法活動が名実ともに政策過程の中心。アリーナ型では、極論すれば、政権与党の意思を議決によって再確認する以上の意味はない。この場合、議会の主な役割は与野党間の論争による争点の明確化(争点明示機能)。政策過程の実質的な中心は、官僚制による法案作成や政党による選挙公約(マニフェスト)作成段階に存在する。
(先進国の自由民主主義体制の下における政治過程を見てみよう。と前置きしたうえで・・・)国民が特定地域の居住者という立場から選挙に参加したとしても、そのような選挙で選出された個人は、国民全体の利益を代表すべきものであり、その過程で、国民的利益を集約する役割を果たしているのが政党である。(暗黙の前提として日本のようなアリーナ型議会があるようである)【参考『現代政治学』加茂利男・大西仁・石田徹・伊藤恭彦ら著 p102 自由民主主義体制下の政治過程】
6.日本の国会の特徴と慣行
- 二院制(両院制):衆議院(下院に相当)と参議院(上院に相当)によって構成。
- 衆議院の優越:衆参両院は基本的に対等の立場にあるが、両院の意見が一致せず、国会としての意思決定ができなくなること避けるため、衆議院の優越が定められている。
例)法案の再可決、予算・条約の承認、内閣総理大臣の指名について、衆議院の議決が国会の議決に。 - 会期制:通常国会(毎年1月に召集され150日間開催)、臨時国会(臨時に開催。例年秋に開催)、
特別国会(衆院選後に衆院議長や内閣総理大臣を指名するために開催) - 本会議と委員会:衆参双方とも議員が一堂に会する本会議。専門の領域ごとの委員会。議案は双方審議されるが、日本では審議の中心は委員会(委員会中心主義)。ただし最終的な議決は本会議による。
【日本の国会運営の慣行】
- 年間複数会期制:一年間における議会の開会期間(会期)を短期の複数回に分散する慣行。
- 会期不継続の原則:会期中に議決に至らなかった案件を次の会期に継続しないという慣行。
- 議会審議の粘着性:政府が提出する予算案や法案が議会での野党の抵抗でなかなか成立しないこと。