すべての政治体制は政治権力を運用する権力者(エリート)に依存しており、民主政も例外ではない。民主政は統治者の正統性が人民の代表委任(選挙)に依拠しているという点で他の政治体制と異なるが、民主政においてもエリートが政治動向を大きく左右する点は同じだ。
1.原点としての近代議会政治
- 政治主体としての市民:政治参加の権利を持つ市民は、理性的な判断ができ、討論による公益の形成に参加できるだけの知的能力が必要であるという近代的な市民観。(啓蒙主義の大きな影響)
- 民主主義:人民(市民の集合)の意思による自己統治 ⇒ 公共利益を人民の協議で形成し実現する。
- 公益の形成機関としての議会:国家としての最高意思を実現。立法府として法を制定。
⇒19世紀までの自由主義的議会:議員が活発に討論する議会が近代政治の中心。
※近代議会は代表者による間接民主制。代議制システム自体にエリート中心の要素がある。
2.議会政治の機能低下と官僚の台頭(19世紀末~20世紀初頭)
- 社会変化に伴う行政の高度組織化(=行政国家化)→議員以上に専門能力に長けた官僚の台頭
- 普通選挙の実現と大衆民主主義→大衆世論に翻弄される議会。議会機能低下と裏腹に官僚支配が強化。
【議会政治の現代的問題】公開の審議と決定を通じて真の公益に到達することを目指す近代議会制は、大衆が政治に参画する現代ではかえって困難に。政党は種々雑多な政治的利害を政治の場に吸い上げ、表向きは議会で論争するが、実際には、密室の談合などで決着を図る。果たして議会制での公益の形成や公共政策の立案は可能なのか?
3.20世紀前半の民主主義論 ‐顕著になるエリート中心主義
エリート主義的民主主義(ウェーバー、シュンペーター)
指導者民主主義(マックス・ウェーバー『職業としての政治』1919)
- 政治家の資質:自らの信念に従い断固として行動し、結果の責任を潔く引き受けること。
- 官僚の資質:党派性をもたず、上位者の命令に誠実に従うこと。
「政治家が官僚を使いこなすべきであり、官僚上位の国家運営は民主政治に危機をもたらす」(ウェーバー) - 大衆の役割:政治家に相応しい人物を選出すること。←指導者選抜の機能に特化した選挙観。
★政治指導者のカリスマ性によって議会をリードし、国家の過剰な合理化・官僚制化を打破すべき。ウェーバーによれば、民主主義とは、強力な指導者を選出しその権力に正統性を付与する制度。(公益とは何かを熟知した指導者が、政党組織を手足のように動かし、官僚を使いこなして政治を導く。よって人民自らが公益形成に参与するという従来の民主主義理解は影を潜める)カール・シュミット(1888~1985)に至っては、議会制を否定し、政治指導者に対する大衆の「喝采」を支えとする全体主義的な直接民主制(民主的独裁性)を擁護。
◆手続的民主主義(シュンペーター『資本主義・社会主義・民主主義』 1942)
- 一般大衆は個々の政策決定に関わる能力はないが、そのような政策決定の能力を持った人材(指導者となりうる人材)を選挙で定期的に選ぶ能力ならある。
- 民主政治は市場競争に類似。政治家は企業家、大衆は消費者、政治家は大衆の支持獲得競争を展開。
★民主主義を特別な価値として理想視せず、指導者(エリート)の選出手続きとして割り切る。