円滑な金融取引のために
円滑な金融取引を実現するためには、「事前の情報獲得」と「事後の履行確保」が重大だ。事前の情報獲得とは、当事者間のコミュニケーションを通じておこなわれたり、資金調達者が自ら開示するデータを通じておこなわれたりする。事後の履行確保とは、当事者間のコミュニケーションを通じておこなわれたり、明示的な契約とそれに対する法的保護の過程でおこなわれる。
ダニエル・パウ太
ダニエル・パウ太
私的情報
相対取引(あいたい)による金融取引は、たとえば予てから取引関係にある銀行と銀行とが資金の貸し借りをするときは相対取引という金融取引の事例にあたるのだが、信用、将来性、評価や様々な情報が、私的情報として当事者間で蓄積されていくかもしれない。なぜなら、互いに時間コストやリスクを負って取引相手に辿り着くのだから、価値を認めて大切にする可能性が高い。一度出会った当事者らは長期継続的な取引関係に発展することもあるだろう。
情報生産活動
そもそも取引相手の信用、将来性、評価や様々な情報を、もう片方の経済主体が生み出していくためには、専門的な能力や知識が必要とされる。また、そうした情報生産活動は、自分自身が高く評価されたり、信用されたりするほど、有利になってくるから、「規模の経済」や「範囲の経済」が作用してくる見込みがある。
情報インフラ
市場型の金融取引をおこなうためには、たとえば競売的に価格をシグナルとした取引をおこなうためには、公開情報の形で特定の資金調達者の信用、将来性、評価や様々な情報を、得ることができるようにする必要があるだろう。そのためには、法的保護の環境も必要であるが、そもそもそのような情報伝達のインフラストラクチャーを必要とするものだ。
ダニエル・パウ太
ビジネスを評価される立場からみた情報流通
ベンチャービジネスなど新奇性あるビジネスであれば、大勢から評価されることは有益であるし、何回も頻繁に評価されることは有益であるし、なにより経済全体で生き残るものを生存させる効率を生むことができる。新規創業企業などは、公開情報と共に市場型の金融取引(価格をシグナルとする競売など)が望ましいし、経済全体としてもそのようにして欲しいかもしれない。逆に、企業のビジネスに先例があったり、そもそも確立された産業、業界におけるビジネスであったりすれば、あまりに大勢から評価される必要も、繰り返し評価を更新する必要もないかもしれないから、長期継続的な相対取引が好ましいものになってくるだろう。
景気変動
長期継続的な相対取引であれば、企業が業績不振で信用の低下した状態に陥っても、理由が納得できたり、一時的なものだという見通しがあったりして、銀行は簡単には取引を中断しない可能性があります。これが市場型金融取引であると、上述のとおり価格をシグナルとしているものだから、悪くすれば雪崩をうって買手がつかなくなる可能性もある。市場型金融取引は景気変動に敏感なものになりやすい。
政府介入
長期継続的な相対取引は、しかしながら経済のとてつもないクライシスに対しては、銀行の連鎖倒産など現実味を帯びてくるものであるし、介入する政府としても少数の当事者らに働きかけることでも効果があることから、政府介入は都合によりおこなわれる可能性がある。しかしこれは、政府が限られた経済主体を買い支え、延命を図ることも可能になる、良くも悪くも、相対取引と政府介入は親和的なものとなってくるのである。