社会学分野の良書

※随時更新されます(最終:2022/2/9)

1.社会学入門 — 社会とのかかわり方 (有斐閣ストゥディア)

根拠のないことを最初に言うと、関西大学社会学部ですとか、昔の東京女子大学現代教養学部国際社会学科社会学専攻の編入学試験みたいに、統計学が大問で出題される受験校も社会学分野にはあるのですが、この本の第七章「科学・学問」がとても勉強になるはずです。教える側として、社会学分野の、特に調査結果の統計処理における「因果推論」とか、文系の学生向けに理系色のない説明をどうやってやるんだろうなと悩む場面は多々あるのですが、この本のおかげで「ああこうやって教えるのか」と思ったりしました。全体的に理系の守備範囲に入ってきそうな内容を、理系ってほどでもない感じで教えてくれる良書です。東京女子大の過去問に要は「相関関係と因果関係は何が違いますか」という出題があったりしたのですが、この本に書かれていることを自分なりにまとめて書けば合格するとしか思えないですね。読めばわかります。
逆に、足りない、書かれていない内容と言えば「社会学と経済学は何が違いますか」とかそういう内容が弱い書籍です。他の学問分野と違って、人間や社会をどう捉えるのが社会学ですか、っていうテーゼに対して何ら知見を得られない。そういう意味では社会学と言うよりは高校公民科の現代社会に重心が残った書籍ですよね。そういう問題を平気で出題する、お茶の水女子大学や上智大学のようなハイレベル校の対策としては、とても前段階的なものになると思いますよ。


【過去問・ 関西大学社会学部社会学専攻(3年次編入試験・2020年度)】
問1
現代社会であなたが注目すべきと考える現象や出来事をひとつ取り上げ、(1)その内容を詳しく説明したうえで、(2)社会学であれば、それをどのような方法と理論を用いて分析するのかについて、他の学問(たとえば心理学や経済学や法学など)との違いを明示しながら、説明しなさい。

解答の着想例
社会現象:00年代に非正規雇用の若者が正規雇用者にならなかった

1.社会学
方法:面接法
結果:若年フリーターの多くが「やりたいこと」があるならば良い意味でフリーターだと考えていた。
関連理論:近代化論・近代社会論
前近代社会(伝統的社会):職業選択が自己選択でなかった
近代社会:職業選択が自由化・個人化され自己選択となった
関連理論:職業を通じた自己実現
「やりたいこと」とは職業を通じた自己実現欲求(マズロー)の表れ
関連理論:生き方ダイナミクスの変化
戦後~1980年代:自己の外部にあるもの「よりよい学校、よりよい会社」を目指す生き方
1990年代以降:自己の内部にあるもの「やりたいこと・将来の目標」から出発する生き方

2.経済学
方法:統計調査
結果:不本意型非正規雇用の実態(なりたくてもなれない)が明らかになった
関連理論:非自発的失業との類似性
非自発的失業(完全雇用水準より低い水準で総需要と総供給が均衡し生じる失業。投資や政府支出の過少で生じたりする)に陥った若者の救済措置として不本意型非正規雇用が機能するも、非自発的失業が常態化していた。

【参考】
『社会学をつかむ』西澤晃彦・渋谷望著 有斐閣
「若年非正規雇用者の社会学的考察‐「やりたいこと」志向の再解釈‐」益田仁(2006)
「非正規労働者の希望と現実‐不本意型非正規雇用の実態‐」山本勲(2011)

【関連する発展的な出題】上智大学文総合人間科学部社会学科(3年次編入試験・2018年度)「あなたが今まで学んできた学問と、あなたが知っている社会学を比較して、社会問題(社会現象)の具体例をあげて、その問題に対する二つの学問の接近(分析)方法について、概念、仮説、理論などから簡潔に記述しなさい(800字以内)」


過去問・ 関西大学社会学部社会システム専攻(3年次編入試験・2019年度)
問1
経済学的な人間モデルと社会学的な人間モデルの違いを対比したうえで、それが両方の学問のあいだの労働研究へのアプローチ(どういう側面に注目するか、など)の違いにどのように影響しているかを、総計300字程度で説明しなさい。
問2
2019年4月から施行されることになった「高度プロフェッショナル制度」(年収1075万円以上の一部専門職を労働時間規制から外すこと)の導入の趣旨について、あなたが「問1」で答えた「経済学的な人間モデル」ならびに「社会学的な人間モデル」のそれぞれとどういう関係をもつかについて総計300字程度で論じなさい。
■解答例 問1
経済学的な人間モデルとは、効用関数と合理性で特徴づけられた人間モデルであり、ここで「労働」とは「所得を得るための非効用(=コスト)」として考えられる。社会学的な人間モデルとは、価値観と欲求で特徴づけられた人間モデルであり、ここで「労働」とは「自己実現の手段」として考えられる。(138字)
■解答例 問2
賃金に成果主義が導入されると、所得が「労働時間」だけでなく「成果」にも依存する。ここで成果を得る努力が、経済学的な人間モデルでは低コスト化のための投資になりうるのに対し、社会学的な人間モデルでは自己実現を商品化する試みとなりうるのである。たとえばある難病の手術を成功させた医師には手当てがでるようになった病院を考える。この制度により、その難病の手術を予てから成功させたかった医師の努力は、経済学的な人間モデルでは所得をより低い時間コストで得るための投資となり、また社会学的な人間モデルでは自己の成功体験を商品化する試みとなるのである。(261字)
【参考】
『社会学入門-社会とのかかわり方-』筒井淳也・前田泰樹著 有斐閣ストゥディア
【関連する発展的な出題】お茶の水女子大学文教育学部人間社会科学科(3年次編入試験・2019年度)「日本の企業社会における人々の働き方についての問題点や改革の課題について社会学的に論じなさい。」


2.10代からの社会学図鑑

根拠のないことを最初に言うと、この本が無理な人は勉強に向いていないと思います。わかりやすい。逆にわかりやすすぎて、人によっては頭になにも引っかからず全く覚えていない読了になる。そこだけ気をつけて欲しい系統の書籍になります。こういう書籍こそ先生とか先輩とか、指導的立場の人間と、あえて一緒に読むとよいです。指導する側が、逐次、「わかった?じゃあこれどういう意味?」と問いかける教え方に適した図解本としては、非常に優れています。独学する際は演習問題とセットだと良いと思いますから、たとえば過去問題を一回試しに解いてみるさいに、この本のみ持ち込んだ前提で解いてみると、同時に勉強になるのかなと思います。

3.社会学入門: 人間と社会の未来 (岩波新書)

根拠のないことを最初に言うと、難しめの書籍や教科書で考えが煮詰まってしまったり、もう勉強したく無かったり、編入学試験の受験を断念しようかなと思ったタイミングで、この本を読むと、よき話し相手になってくれるのは間違いないです。見田宗介先生自体は駒場で教鞭をとるレベルのプロ中のプロなので、見田先生の頭の中が徒然と書かれているから、ウマが合う人も合わない人も、とにかく「ああそのようになりますか」と思えるんですね。こういうストーリーテリングをしてくれる先生の著作は、喉が詰まった時の飲料水のような、素敵さがあります。そのぶん批判的立場の別の先生や、異なった考え方が必ずあるため、むしろその辺りでTake it easy.を求めるときに向いているんですよね。あんまり客観的、中立的、論理的といったものを突き詰めると必ず煮詰まる分野でもあると思いますからね。

4.広告で社会学

根拠のないことを最初に言うと、この本で勉強した気になれる人は絶対に合格できません。ただ、社会学系【小論文】の対策としてはネタ帳でこれほど充実したものはありません。要は、この書籍で挙げられている様々な事例と、それに紐づいている理屈(理論的な薀蓄)に対して、さらに※掘り下げないと対策としては浅いですよと言いたいのです。明治大学情報コミュニケーション学部志望は絶対に読んで持っておいた方がよい一冊です。
※「掘り下げる」というのはこの本の各章末にリストされている文献紹介の書籍を一冊ずつ読んでみましょうと言う事。専門書の速読ができるようになったタイミング(試験直前期)でサクッと読み漁るとよいかもしれませんね。

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