※随時更新されます(最終更新:2023/4/16)
1.『社会学入門 — 社会とのかかわり方』 (有斐閣ストゥディア) 筒井 淳也 (著), 前田 泰樹 (著)
根拠のないことを最初に言うと、関西大学社会学部ですとか、昔の東京女子大学現代教養学部国際社会学科社会学専攻の編入学試験みたいに、統計学が大問で出題される受験校も社会学分野にはあるのですが、この本の第七章「科学・学問」がとても勉強になるはずです。教える側として、社会学分野の、特に調査結果の統計処理における「因果推論」とか、文系の学生向けに理系色のない説明をどうやってやるんだろうなと悩む場面は多々あるのですが、この本のおかげで「ああこうやって教えるのか」と思ったりしました。全体的に理系の守備範囲に入ってきそうな内容を、理系ってほどでもない感じで教えてくれる良書です。東京女子大の過去問に要は「相関関係と因果関係は何が違いますか」という出題があったりしたのですが、この本に書かれていることを自分なりにまとめて書けば合格するとしか思えないですね。読めばわかります。
逆に、足りない、書かれていない内容と言えば「社会学と経済学は何が違いますか」とかそういう内容が弱い書籍です。他の学問分野と違って、人間や社会をどう捉えるのが社会学ですか、っていうテーゼに対して何ら知見を得られない。そういう意味では社会学と言うよりは高校公民科の現代社会に重心が残った書籍ですよね。そういう問題を平気で出題する、お茶の水女子大学や上智大学のようなハイレベル校の対策としては、とても前段階的なものになると思いますよ。
【過去問・ 関西大学社会学部社会学専攻(3年次編入試験・2020年度)】
問1
現代社会であなたが注目すべきと考える現象や出来事をひとつ取り上げ、(1)その内容を詳しく説明したうえで、(2)社会学であれば、それをどのような方法と理論を用いて分析するのかについて、他の学問(たとえば心理学や経済学や法学など)との違いを明示しながら、説明しなさい。
解答の着想例
社会現象:00年代に非正規雇用の若者が正規雇用者にならなかった
1.社会学
方法:面接法
結果:若年フリーターの多くが「やりたいこと」があるならば良い意味でフリーターだと考えていた。
関連理論:近代化論・近代社会論
前近代社会(伝統的社会):職業選択が自己選択でなかった
近代社会:職業選択が自由化・個人化され自己選択となった
関連理論:職業を通じた自己実現
「やりたいこと」とは職業を通じた自己実現欲求(マズロー)の表れ
関連理論:生き方ダイナミクスの変化
戦後~1980年代:自己の外部にあるもの「よりよい学校、よりよい会社」を目指す生き方
1990年代以降:自己の内部にあるもの「やりたいこと・将来の目標」から出発する生き方
2.経済学
方法:統計調査
結果:不本意型非正規雇用の実態(なりたくてもなれない)が明らかになった
関連理論:非自発的失業との類似性
非自発的失業(完全雇用水準より低い水準で総需要と総供給が均衡し生じる失業。投資や政府支出の過少で生じたりする)に陥った若者の救済措置として不本意型非正規雇用が機能するも、非自発的失業が常態化していた。
【参考】
『社会学をつかむ』西澤晃彦・渋谷望著 有斐閣
「若年非正規雇用者の社会学的考察‐「やりたいこと」志向の再解釈‐」益田仁(2006)
「非正規労働者の希望と現実‐不本意型非正規雇用の実態‐」山本勲(2011)
【関連する発展的な出題】上智大学文総合人間科学部社会学科(3年次編入試験・2018年度)「あなたが今まで学んできた学問と、あなたが知っている社会学を比較して、社会問題(社会現象)の具体例をあげて、その問題に対する二つの学問の接近(分析)方法について、概念、仮説、理論などから簡潔に記述しなさい(800字以内)」
過去問・ 関西大学社会学部社会システム専攻(3年次編入試験・2019年度)
問1
経済学的な人間モデルと社会学的な人間モデルの違いを対比したうえで、それが両方の学問のあいだの労働研究へのアプローチ(どういう側面に注目するか、など)の違いにどのように影響しているかを、総計300字程度で説明しなさい。
問2
2019年4月から施行されることになった「高度プロフェッショナル制度」(年収1075万円以上の一部専門職を労働時間規制から外すこと)の導入の趣旨について、あなたが「問1」で答えた「経済学的な人間モデル」ならびに「社会学的な人間モデル」のそれぞれとどういう関係をもつかについて総計300字程度で論じなさい。
■解答例 問1
経済学的な人間モデルとは、効用関数と合理性で特徴づけられた人間モデルであり、ここで「労働」とは「所得を得るための非効用(=コスト)」として考えられる。社会学的な人間モデルとは、価値観と欲求で特徴づけられた人間モデルであり、ここで「労働」とは「自己実現の手段」として考えられる。(138字)
■解答例 問2
賃金に成果主義が導入されると、所得が「労働時間」だけでなく「成果」にも依存する。ここで成果を得る努力が、経済学的な人間モデルでは低コスト化のための投資になりうるのに対し、社会学的な人間モデルでは自己実現を商品化する試みとなりうるのである。たとえばある難病の手術を成功させた医師には手当てがでるようになった病院を考える。この制度により、その難病の手術を予てから成功させたかった医師の努力は、経済学的な人間モデルでは所得をより低い時間コストで得るための投資となり、また社会学的な人間モデルでは自己の成功体験を商品化する試みとなるのである。(261字)
【参考】
『社会学入門-社会とのかかわり方-』筒井淳也・前田泰樹著 有斐閣ストゥディア
【関連する発展的な出題】お茶の水女子大学文教育学部人間社会科学科(3年次編入試験・2019年度)「日本の企業社会における人々の働き方についての問題点や改革の課題について社会学的に論じなさい。」
2.『10代からの社会学図鑑』ミーガン トッド (監修), Chris Yuill (原名), Christopher Thorpe (原名), Megan Todd (原名), クリス ユール (著), クリストファー ソープ (著), 田中 真知 (翻訳)
根拠のないことを最初に言うと、この本が無理な人は勉強に向いていないと思います。わかりやすい。逆にわかりやすすぎて、人によっては頭になにも引っかからず全く覚えていない読了になる。そこだけ気をつけて欲しい系統の書籍になります。こういう書籍こそ先生とか先輩とか、指導的立場の人間と、あえて一緒に読むとよいです。指導する側が、逐次、「わかった?じゃあこれどういう意味?」と問いかける教え方に適した図解本としては、非常に優れています。独学する際は演習問題とセットだと良いと思いますから、たとえば過去問題を一回試しに解いてみるさいに、この本のみ持ち込んだ前提で解いてみると、同時に勉強になるのかなと思います。
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(22/12/23追記)割と肝心なことを書き忘れてしまっていましたが、この本は社会学者の紹介がキチンとなされているため、下記のような出題があるファカルティの受験対策には非常によい。
【過去問・明治学院大学社会学部社会学科(3年次編入試験・2019年度)】
空欄( )に入る適切な言葉を記入しなさい
そして1940~50年代都市部におけるアメリカ中間階級の対社会的な行動が(自己)指向から他人指向に移行していることを指摘している。ちなみに、(自己)指向型が想定している社会階層は、銀行家・商人・中小企業家・専門技術者などの旧中間階級であり、他人指向型は官僚や(ホワイトカラー)などの新中間階級であった。
これらの人間類型を社会類型論の観点からみれば、(D.リースマン)の類型論は、伝統指向型/伝統社会 → (自己)指向型/産業中心の近代社会 → 他人指向型/消費中心の大衆消費社会という社会変化のモデルとして解釈することができるだろう。
★アドバイス★
自己指向は「内部指向」とも言う。「ホワイトカラー」以外にも適切な言葉はあると思われる。社会学系編入学試験対策は①主要な社会学者の名前、②彼らの主要な業績、③専門用語、この三つの知識をセットでインプットする勉強法が可能であれば望ましい。「伝統指向とは~」「自己指向とは~」「他人指向とは~」と専門用語だけを暗記する勉強法は非推奨で〈D.リースマン/孤独な群衆/〈伝統指向とは~/自己指向とは~/他人指向とは~〉〉と入れ子構造にして暗記する方が、試験当日の成績的な意味でコスパはよいと思われる。
【関連する発展的な出題】駒澤大学文学部社会学科社会学専攻(3年次編入試験・2020年度)「現代の日本社会は、中間階層が減少し、社会階層構造が変化したと言われていますが、なぜそのような変化が起きてきたかについて説明しなさい。またその変化は、具体的にどのような社会問題を引き起こしているかについても、具体例をあげながら多面的な視点を示しながら、説明しなさい」
3.『社会学入門: 人間と社会の未来』 (岩波新書) 見田 宗介 (著)
根拠のないことを最初に言うと、難しめの書籍や教科書で考えが煮詰まってしまったり、もう勉強したく無かったり、編入学試験の受験を断念しようかなと思ったタイミングで、この本を読むと、よき話し相手になってくれるのは間違いないです。見田宗介先生自体は駒場で教鞭をとるレベルのプロ中のプロなので、見田先生の頭の中が徒然と書かれているから、ウマが合う人も合わない人も、とにかく「ああそのようになりますか」と思えるんですね。こういうストーリーテリングをしてくれる先生の著作は、喉が詰まった時の飲料水のような、素敵さがあります。そのぶん批判的立場の別の先生や、異なった考え方が必ずあるため、むしろその辺りでTake it easy.を求めるときに向いているんですよね。あんまり客観的、中立的、論理的といったものを突き詰めると必ず煮詰まる分野でもあると思いますからね。
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4.『広告で社会学』難波 功士 (著)
根拠のないことを最初に言うと、この本で勉強した気になれる人は絶対に合格できません。ただ、社会学系【小論文】の対策としてはネタ帳でこれほど充実したものはありません。要は、この書籍で挙げられている様々な事例と、それに紐づいている理屈(理論的な薀蓄)に対して、さらに※掘り下げないと対策としては浅いですよと言いたいのです。明治大学情報コミュニケーション学部志望は絶対に読んで持っておいた方がよい一冊です。
※「掘り下げる」というのはこの本の各章末にリストされている文献紹介の書籍を一冊ずつ読んでみましょうと言う事。専門書の速読ができるようになったタイミング(試験直前期)でサクッと読み漁るとよいかもしれませんね。
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5.『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』今野晴貴 (著)
根拠のないことを最初に言うと、この本で大量に扱われている専門用語の類(たとえば「派遣村」、「ブルシットジョブ」、「ヘゲモニー」など)は、編入学受験生なら覚えておいて損のないものになります(残念な大学生はルー大柴に出会ったなど茶化してしまうのですが)、それが一般常識から大学院生レベル知識まで一式揃っているようなものです(初学者から上級者まで一通り必要な用語集を仕入れるのに悪くない一冊なのです)。つまり、面倒くさがらずに読み進めて損は無いですよ。社会学系のファカルティで過去に「労働」がテーマになった大学を志望する場合は、沢山の本を読むハメになるのですが、これはおススメの一冊になります。ただし、これを読んで勉強しておいたほうがよい、というよりはむしろ、これで勉強するだけの地力をこしらえたうえで試験当日を迎えたほうがよいことを肝に銘じて欲しい(レベル的にもベンチマークになる)。ただ編入学予備校にいるような受験対策の先生に言わせると、もしかすると「あぶなっかしい勉強法」と言ってくれるかもしれません、彼らはそもそも自分達を頼る、ような(失礼)、学生を狙って面倒を見るからそういうリップサービスになります。しかし、この本を読んだときに「すごく親切な人に出会った」と思ってしまう人は、(勉強はできるかもしれませんが)討論は苦手な人かもしれません。「系譜学」と称してありますが、およそテレビや新聞などマスメディアで取り沙汰された「誰でも知っている事件」の徒然草なのですね。それが著者である今野晴貴氏の怪力の如く説得力で、「これが真実なのだからな?」と言わんばかりなのですね。別の言い方をすれば学部生なりの非力でも考える力で著者の握力を握り返せる読者ほど、よい教材になるはずです。具体的な内容に触れると、「新自由主義」、「ポストキャピタリズム」という思想論の系譜に対して、「ブラック企業」「若者論」「人工知能」「アフターコロナ(コロナ禍の次の時代)」という史実の系譜です。「労働の社会史」と言ったときに、日本の低層労働者(いわゆる「底辺」)の凄惨な有様を酷薄に描いている部分は多々あります(残酷な本だったと思う人もいるかもしれない)。あとは、著者の専門領域(自身の専門性)に由来するのかもしれませんが、「日本型雇用慣行の崩壊」や「働き方改革」といった経団連系、政策与党系のメインテーマ、メイントピックは意図的に避けているんじゃないかな?…そういう意味で少し偏ってはいる。
6. 『タイ 中進国の模索』(岩波新書) 末廣 昭 (著)
根拠のないことを最初に言うと、この本はよっぽど余力のある受験生向けになります。いつ筆者がアマゾンで購入したのが確認したら大学四年生のときだったので、(つまり10年以上昔の本でもある、)読めなくても、まぁ大丈夫です。ただ社会学を勉強する人が、日本国内のセンシティブなトピックスばかりフォローしていて、たとえば東南アジアのタイの現代史を知らないのは、勿体ないなというモチベーションで紹介しています。そんななか受験生に読んでもらいたいのは、第4章「タイの中進国化と社会の変化」のチャプターです。中国が少子高齢化してきていますなんてニュースを今時分、聞いたりするけど、タイの少子高齢化はとっくの昔。こういう事実を聴いたときに、「あぁ~、私は何も知らない、うぅー!」とか、「喋ってるヤツ!ムカつく!」とかではなくてですね、「ていうかもうとっくにクッソ難しい話を聴かされているから前向きに、やる気があるときに調べておこう」という感覚でないと、大学以降の勉強はスぺります(死にます)。それにしてもタイ現代史は社会学の編入学試験で出題皆無なんですよね。どちらかというと「アジア文化専修」みたいなファカルティの受験で必要になってくるものではあるんですが。腕試しに読むにはちょうど良いかなとは思います、筆者は大学四年生で面白おかしく読んだので。
7. 『社会学 新版 (New Liberal Arts Selection)』 長谷川 公一 (著), 浜 日出夫 (著), 藤村 正之 (著)
根拠のないことを最初に言うと、埼玉大学教養学部現代社会専修課程を志望する受験生には重宝すると思われる一冊です。高校時代に公民科目が倫理選択だった人は土台が出来上がっていてすんなり学習にはいれるはず。中身がそんな内容です。フーコーとか、ハーバーマスとか倫理の教科書で見た顔ぶれが載っています。全体的に程よく図解があり、都市地理学の同心円地帯モデルやエスニシティ、メディア論に差し掛かった内容まで幅広くカバーしてあるため、埼玉大学教養学部現代社会専修課程を志望する受験生で「これ一冊持っておくだけで安心」という系統の良書がなかなか見つからないという人は、とりあえずこの一冊を持っておくとしっくりくるかもしれません。レベル的にも決して雑魚ではない埼玉大学あたりを狙うならこれで勉強したいところです。メディア論や地理学系統の受験生で、自分の専門科目と一緒に勉強していた社会学要素をあえて深堀したいな、とか、社会学も一からやらないとイマイチよくわからないなとか壁にぶち当たった受験生で、本当に意欲があって、辞書代わりになる用途で一冊持っておきたいなと思った人にもおススメできます。ただ一、二年生には少し重めの本なのと、高校倫理選択以外には苦痛がかなりある内容なので、ってことは高校現社、政経選択は埼玉大学教養学部現代社会専修の受験で不利なんですかと言われると、「うーん、無きにしも非ず」ですね。
8.『友だち幻想 人と人の<つながり>を考える』(ちくまプリマー新書) 菅野 仁 (著)
根拠のないことを最初に言うと、この本はこれから社会学を勉強する人向けの「さりげない橋渡し」になると思われる一冊です。人間関係をつくることが得意な人も不得意な人も、結局友達関係を我流でやっている人がほとんどだから、社会学で「友情」や「共同体」といった内容を習ったときに参照する現実の事例が「自分が我流でやった教訓」ばかりだということになりかねません。でもそれはちょっと待って欲しい。たとえば「いまはお金さえあれば一人で生きていける時代ですね?」と言われたときに、「はい」という人も「いいえ」という人も、そう思ったならそれでいいのですが、社会学の立場からすると圧倒的に「YES」なんですね。昔と比べれば圧倒的に一人で生きていけるようになってきました。だから人間関係は目的論になりつつある。人間関係をつくること自体が目的の人もいれば、他に何か特別な目的があって人間関係をつくる人もいます。そんな感じで、案外誰も教えてくれなかったことを客観的に書いている親切な本です。社会福祉学科など、社会福祉の系統に進みたい編入学の受験生にも是非お勧めです。