過去問・獨協大学経済学部経済学科・経営学科・国際環境経済学科(2年次編入試験・2018年度)

人工知能の発達とその活用がもたらすメリット・デメリットについて自由に考察しなさい。

解答例(最終更新日2020/9/25)
人工知能の研究には二つの立場があり、一つは人間の知能を機械で再現しようとする立場、もう一つは人間の知的な活動を機械で再現しようとする立場である。たとえばSF小説にでてくる人型ロボットなどは前者に含まれ、市販の将棋ソフトウェアなどは後者に含まれる。ここでは後者の人工知能研究について、具体的に将棋ソフト開発を例示しながら、発達と活用がもたらすメリット・デメリットを考察する。結論から述べると、メリットとしてコーチ的あるいはライバル的立場から人間の知的な活動を鍛えることができると考えられ、しかしデメリットとして人工知能をそのように活用できるか否かで能力に格差が生まれる可能性が考えられる(c.f. AIデバイド)。

さて将棋とは日本のボードゲームであり勝敗が存在する。より勝てる者が強者である。たとえばトッププロの羽生善治氏などプロを相手に7割以上の勝率を誇る。2000年頃、いつかプロより強くなるだろうと囁かれた将棋ソフトは2010年頃にはプロに匹敵した。そしてプロと将棋ソフトのどちらが強いのかという関心は将棋フリークの世界に留まらなかった。2013年、ドワンゴ社が中心となって開催したプロと将棋ソフトの対局(第二回電王戦)は広く一般にも報じられイベントとして大成功した。しかし、その数年後、もはや人間は将棋ソフトに勝てないのだろうと諦めが漂うと、特に2016年以降は、将棋ソフトの話題が広く一般に報じられることはほとんどなくなった。しかし、人間より強い将棋ソフトのせいで人間同士の対局がつまらなくなったかと言えば、決してそのようではなかった。同年にプロに昇格した藤井聡太氏の活躍がはじまり、プロ同士の白熱が報じられると、それ以来、むしろ将棋の人間ドラマとしての面白さを再確認するような盛り上がりをみせた。このとき私は、将棋ソフトが「人類のライバル」から「よくできた計算機」へと格下げされたように感じた。

ここで競技者的立場から将棋ソフトを考えたとき、コーチやライバルとみなして技量を学ぼうとするか、よくできた計算機にすぎない(強いが参考にならない、したくない)と見切りをつけるかの判断は、将棋ソフトの発達の過程で、あるいは将棋ソフト自体への受容(寛容とも言うべきか)によって、人それぞれ、つまりプロや将棋フリークの間でも様々だったのではないか。今も将棋ソフトがライバルという者もいれば、もう諦めた者もいるだろうし、能力と関係ない理由で忌避した者もいるだろう。ここでより一般論的に考えて、コーチ的、ライバル的な人工知能とは、大いに脱落者を生んでいくのではないか。ここで知的な活動とは経済的な活動まで言及できるはずだから、人工知能への脱落者を生むことが能力的な脱落者を生むことにつながれば、特に格差社会などの論点に照らして、重大なデメリットと考える。

【関連する発展的な出題】日本大学商学部(2年次編入試験・2020年度)AI(人工知能)の発達は、近未来の私たちの働き方にどのような影響を与えると考えられるか。あなたの意見を720字以上800字以内で述べなさい。

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