過去問・同志社大学社会学部社会福祉学科(2年次編入試験・2022年度)

【Ⅰ】日本政府は児童虐待の防止などに向けて、子どもデータベースの構築などを検討している(KYODO新聞、11月23日付き、記事タイトル:政府、子どもデータベース構築へ 貧困や虐待、情報一元化)。このような動きは、日本における児童虐待の深刻さなどを背景とする。ここでは、日本における児童虐待の現状を概括した上で、児童虐待の解決策について、本人の考えを述べなさい。

【Ⅱ】児童養護施設の小規模かつ地域分散化は、子どもに「より家庭的な環境を提供する」など非常に重要な取り組みである。メリットとデメリットを概括した上で、デメリットの解決について、本人の考えを述べなさい。(一部改訂)


受験情報
2019年度から2023年度まで過去5年間にわたり募集のある同志社大学社会学部社会福祉学科ですが、2019年度から2022年度は受験生計5名に対して合格者1名の難関です。募集要項に従って受験資格がある人も、念のため受験資格があるか(本当は社会福祉士の実務経験が必要だったりしますか?とか、全く関係ない学部からでも編入学できますか?とか、その程度なら答えてくれると思うので)問い合わせたほうが良いかもしれません。

解答の着想1

児童虐待

・・定義
: :.. 身体的虐待
: :.. 性的虐待
: :.. ネグレクト
: :.. 心理的虐待

・・貧困社会型児童虐待

・・文明社会型児童虐待
: :.. 世帯内の精神病理、家族病理
: :  :.. 核家族化の影響
: :  :.. 親の軽度精神遅滞 
: :
: :.. 子育ての失敗
: :  :.. 毒親
: :  :.. 愛着形成
: :  :.. 愛着臨床
: :  :.. 幼少期の記憶
: :
: :.. 社会的放置
:    :.. 親の孤立、不信感や疎外感

・・反規範的行動

貧困社会型こどもの虐待[1]

社会全体の、経済的貧困や、子どもの人権を認めない精神的・文化的貧困による虐待

文明社会型こどもの虐待[1]

社会全体では、経済的貧困になく、子どもの人権も認知されているにも関わらず、世帯内の精神病理、家族病理によって、子育ての失敗から移行して行われる虐待

毒親[2]

子どもが小さい頃から、その育児姿勢が一貫して子どもの安定した愛着形成を妨げてきた親

愛着形成と幼少期の記憶[4][6]

愛着形成とは、人との関係性において非常に安心したり、相手のことを肯定的に受け止めたりするということが発達の中で形成されてくる。子育てを受けた記憶がないと、子育てのモデルを創り出して実際に親として子育てをすることができないという指摘がある。人間の記憶は三歳くらいから始まる。記憶の定着は、言語体制化の発達と関係があるとする説がある。自分の体験を言葉に置き換えて、大人と話して、初めて記憶が定着する。ところが施設で育ち、特定の大人と愛着関係が作れなかった子どもたちの一番古い記憶は、小学校の入学式とか、小学校二、三年生からだと言われている。

愛着臨床[4]

「つらかったね、どんなふうにつらかったの?」と聴くこと自体が、つらさへと直面させてしまうこともある。人が話をきいてくれる、ということが癒しにつながるとは限らないときもあるからである。そっとしておくとか、あえて話題にしないとか、一緒に時間を過ごすとか、キャッチボールやお絵かきをするとか、淡々と日常生活を送るということが、傾聴よりも有効な関わりであることがある。このような地道な関わりから、ふっと、子どもたちは心の奥底の深い思いを語ってくれる。

核家族化の影響と親の軽度精神遅滞[3][6]

近年核家族化で、核家族が祖父母や親族らと切り離された環境にあることから、子育てに困難があったときに頼る相手に困ると言う。特に、軽度精神遅滞にあたる成人が親の場合に、誰を頼るべきかもわからず、また被虐待児の状況を問題視し続けることもできず、結果的に放置しておくケースがあると言う。また個人主義的な家庭内で関わり合いが希薄になっていることが原因になることもある。

反規範的な行動[3]

虐待は人間形成の場である家庭を放棄する行動

社会的放置[3]

虐待者と被虐待児童を含む家族が、コミュニティから排除されアソシエーションによる支援から脱落させられること。虐待する養育者も不信感や被害感が強く地域では孤立し疎外感を抱いている場合が多い。自分自身も深刻な被虐待体験をもつことも少なくない、

[1]『子ども虐待ソーシャルワーク論―制度と実践への考察』 著 才村純
[2]『「毒親」の正体 ――精神科医の診察室から』 著 水島広子
[3]『「抜け殻家族」が生む児童虐待:少子社会の病理と対策』 著 金子勇
[4]『愛着臨床と子ども虐待』 著 藤岡孝志
[5]『子ども虐待と援助―児童福祉施設・児童相談所のとりくみ』竹中 哲夫 (編集), 浅倉 恵一 (編集), 長谷川 真人 (編集), 喜多 一憲 (編集), 全国児童養護問題研究会 (編集)
[6]『児童虐待から考える-社会は家族に何を強いてきたか』 著 杉山春


解答の着想2

デメリットとして、「小規模で地域分散型であれば有資格者が複数の児童養護施設をかけ持つなど多大なマンパワーが必要」などという論点は、経済学の小論文であれば文句なし問題のない着眼点である。しかし社会福祉学科の入試であるため、社会福祉学や社会福祉士の実践の範囲内で課題を拾ってくる必要がある。また指摘したメリットと表裏一体のデメリットを挙げたうえで課題解決策を提示できるとよい。

例)元通りの家庭を取り戻すうえで児童養護施設(以後、施設)は家庭環境に近い施設のほうが望ましい。施設の段階で、児童に安心な家庭のモデルを体験してもらう機会になるし、親に子育てのモデルを見てもらう機会になる。親は、自分が子育てを受けた記憶が無いから子育てのモデルがわからないことが多いからだ。しかし、精神病理など原因となって、そのような手法でも上手くいかない家庭(予後不良)に直面したときにパターナリスティックな手法に頼る場面はどうしても出てくるだろう。大半の施設は、多様な児童が時間を共有する機会であって、児童は他の児童から学習できる。ここで親同士の交流会もやってみるとよいと思われる。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA