実態調査の流れと懸念
埼玉県は2020年に全国に先駆けて高校2年生を対象にヤングケアラーの大規模調査を実施し、翌年には国が全国調査結果を公表しました。この流れを受けて、全国の自治体が次々と実態調査を行っています。杏林大学保健学部の教授であり、精神保健福祉士である加藤雅江さんはこの動きに対し一定の評価をしつつも、以下の点に懸念を抱いています。
調査の焦点がずれている
調査の目的が「ヤングケアラーと呼ばれる子どもたちを見つけること」に集中しすぎている点です。加藤さんは「ヤングケアラーという言葉やその子どもたちの存在が知られるようになり、多くのメディアにも一斉に取り上げられました。そしてコロナ禍の影響も重なって、誰に相談したらいいか分からない子どもたちから『自分もヤングケアラーかもしれない』『この状況って普通じゃないんですか?』という相談が増えました」と述べています。このように、メディアや社会の注目が高まる一方で、実際の支援体制が追いついていない現状に危機感を抱いています。
子どもたちへの影響
突然「ヤングケアラー」とラベルを貼られることで、子どもたちが戸惑いや混乱を感じることがあります。「ある時突然『きみはヤングケアラーだ』『支援の対象だよ』って言われて、そのルールが独自のものだとわかっても、きっと戸惑うはず」と加藤さんは指摘しています。ラベル付けによって同情されたり、プライドが傷ついたりする可能性があるため、慎重なアプローチが必要です。
実際の支援体制とその不足
調査が進む一方で、支援や相談窓口の不足が問題となっています。加藤さんは「見つけたあとの支援や相談窓口は圧倒的に足りていません。正直、まだまだ『見つけちゃったけど、どうしよう』という状態。これでは子どもたちが混乱してしまいますよね」と述べています。実態調査を行うだけでなく、見つけた子どもたちに対する適切な支援を整備することが急務です。
具体的な支援の例
全国で徐々に増えている相談窓口や支援活動の一例として、加藤さんが関わる子ども食堂「だんだん・ばあ」が挙げられます。これは月に数回、都営住宅の集会所で行われる子ども食堂で、子どもたちが安心して過ごせる場所を提供しています。さらに、オンライン相談窓口やNPO団体による交流会なども行われており、子どもたちが気軽に相談できる環境づくりが進められています。
支援の充実と多様なアプローチの必要性
加藤さんは「子どもたちが困りごとを話せる大人や専門職の人と接する機会を増やすことが大切」と強調しています。支援のアプローチとして、以下の点が重要です。
- 信頼関係の構築: 子どもたちが安心して話せる大人との関係づくり。
- 多様な相談窓口の整備: オンライン相談や子ども食堂など、多様な支援の場の提供。
- 社会全体の理解と協力: ヤングケアラーについての正しい知識を広め、支援の重要性を社会全体で共有すること。
加藤さんの指摘する「実態調査に伴う支援体制の整備」と「子どもたちが安心して相談できる環境づくり」の両方をバランスよく進めることが、今後の課題となります。