電気自動車市場の現状と未来展望:急成長の先に見える新たな課題と機会

はじめに

電気自動車(EV)の市場はここ数年で爆発的な成長を遂げています。特に2020年から2023年にかけての年間平均成長率は61%に達し、世界中で注目を集めています。しかし、今後数年間の成長率は鈍化すると予測されています。今回は、EV市場の現状と未来展望について詳しく見ていきましょう。

現在の市場動向

世界的なEV販売台数の推移

2020年から2023年にかけて、世界の乗用EVの販売台数は年間平均成長率61%という驚異的な伸びを見せました。しかし、経済移行シナリオに基づくと、向こう4年間の成長率は21%に減速する見込みです。これでもなお、高い成長を続けることは間違いありませんが、過去の急激な成長と比べると明らかにペースダウンしています。

地域別のEV普及率

2023年には、世界の新車販売に占めるEVの割合は17.8%でしたが、2027年には33%に急増すると予測されています。特に中国では2027年までにEVのシェアが60%、欧州では41%に達する見込みです。ブラジルやインドでもEVの販売台数はそれぞれ5倍、3倍に増加すると予測されています。

ネットゼロ・シナリオとEVの未来

大規模なEV普及の必要性

ネットゼロ・シナリオでは、より迅速なEV普及が求められます。2035年までに4億7,600万台、2040年までに7億2,200万台のEVが必要とされ、これは自動車全体の45%を占める規模です。さらに、ネットゼロを達成するためには2035年までに6億7,900万台、2040年までに11億台のEVが必要です。

内燃機関車の終焉

内燃機関車の販売台数は2017年にピークを迎え、2027年までにはそのピーク時に比べて29%減少すると見込まれています。これは、EVが道路輸送の脱炭素化において最も重要な手段であることを示しています。しかし、短期的には燃費規制が厳格化する市場ではハイブリッド車が重要な役割を果たす可能性があります。2030年には市場によってハイブリッド車の普及率が5%から45%に達すると予測されています。

プラグイン・ハイブリッド車(PHEV)の役割

中国におけるPHEVの成長

特に中国では、PHEVの販売台数が急増しており、2023年にはPHEVの平均航続距離が80kmに達しました。これにより、PHEVの魅力が一段と高まりました。ただし、PHEVがバッテリー電気自動車(BEV)に取って代わることはなく、電動モードがどの程度頻繁に使われているかについての懸念も残ります。もしPHEVが充分に電動能力を活用しなければ、石油消費量と二酸化炭素排出量が増加するリスクがあります。

EVの実用性と経済性

走行距離の優位性

EVは内燃機関車よりも長い距離を走行する傾向にあります。多くの国で、完全電気自動車は同等のガソリン車に比べて年間走行距離が長いことが確認されています。ただし、米国では例外的にEVの走行距離がガソリン車よりも短いというデータもあります。

大型トラックの電動化

電気大型トラックは、2030年までに多くのユースケースで経済的に実現可能になると予測されています。初期は都市部での利用が主流となりますが、長距離走行向けの経済性も改善し、2030年頃にはディーゼル車に匹敵する経済性を持つようになるでしょう。燃料電池トラックも一部の国やユースケースでは選択肢として残りますが、その見通しは不確実です。

EV市場の課題と機会

過剰生産能力の問題

電池メーカーにとって、過剰生産能力は大きな問題です。2025年末までに計画されているリチウムイオン電池の生産能力は、その年の予想需要の5倍以上に達する見込みです。しかし、リチウム電池の年間需要は急速に拡大し、2035年までに年間5.9テラワット時に達すると予測されています。

リン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池の普及

LFP電池は技術の向上により、特に中国を中心に市場シェアを拡大しています。中国では、電池セルの価格が急落しており、今後2年以内に世界の乗用EV市場でLFPのシェアが50%を超える見込みです。このシフトに伴い、ニッケルやマンガンの消費量が大幅に減少すると予測されています。

石油需要の置換

EVの普及により、石油需要の置換が急速に進んでいます。2027年までにEVと燃料電池車によって置き換えられる石油需要は日量約400万バレルに達し、これは2022年の日本の石油消費量をわずかに上回る規模です。

電力消費の増加

全世界で自動車が完全電動化した場合、2023年の米国の電力消費量の2倍に相当する電力が必要になります。ネットゼロ・シナリオでは、2050年までに自動車の完全電動化を達成するために約8,313テラワット時の電力供給が必要です。これにより、電力需要が大幅に拡大する一方で、EVはスマートチャージを通じてエネルギーシステムの電化を支えることが期待されています。

充電インフラの急速な発展

拡大するEV需要に対応するためには、今後10年間で充電産業が急速に成熟する必要があります。シナリオによっては、2050年までに充電インフラ、設置、保守のために1兆6,000億ドルから2兆5,000億ドルの累積投資が必要とされています。

結論

電気自動車市場は、過去数年間で劇的な成長を遂げてきましたが、今後数年間の成長率は鈍化する見込みです。それでも、世界の新車販売に占めるEVの割合は増加し続け、特に中国や欧州では急速な普及が見込まれています。ネットゼロ・シナリオを達成するためには、さらなるEV普及と充電インフラの整備が不可欠です。今後の市場動向と技術革新に注目しながら、持続可能な未来を目指していくことが求められます。

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