しろねこ

武藤啓介(むとう けいすけ)は、年配の女性を好む性癖だった。
母親と同い年くらいの女性を愛したが、ただの女性ではないのだ。
端正な顔立ちで大学院生の武藤が愛したのは風俗嬢だ。

名を、あおいと言う。
薄黒い肌、だらしない身体、黒髪こそ長く美しいが女性ホルモンの注射に違いない。

しばらくして引退したあおいは、実父の介護に明け暮れ、仕事は掃除婦をしていた。

やがて父親が他界し、葬儀。

父の葬儀であおいは呟いた。

あと十年はあるか。

あおいは、不意に武藤だけ思い出した。客は何人もいたが。
私は目が悪いんだよと、年甲斐もなく、端正な顔立ちの武藤にそう言っていたことなど不意に思い出した。

するとそこに、魔女が表れた。
魔女が武藤を連れてやって来た。
武藤の願いを聞いた魔女が武藤を連れてきた。

武藤は言った。
あおいさん。若輩の私には皆目見当もつきません。しかしお会いしたかったのです。

あおいは言った。
元気そうでよかった。恋人はできた?

魔女は、あおいに言った。
若返りたいか。あと十年。いや二十年はあるか。

あおいは無言になった。

武藤は、二人に割って入った。
あおいさんは若返りたくないと思います。若返りたくなんてないと思います。

それを聞いた瞬間に、魔女は魔法であおいを若返らせた。

若返ったあおいは透き通るような白い肌、身体、美しい黒髪は短く、まるで白猫のようだ。

武藤は間違ったことを言ったと思った。

しかし魔女は武藤に言った。
お前はよく言った。
それだけ言って、また武藤を連れて去っていった。

数週間後、武藤は、美しい若返ったあおいの姿が目に焼き付いていたので、地元の風俗店で若い女性のいる店に、気が付けば足を運んでいた。

容姿の若返ったあおいは、その店にいた。
武藤と直接接客こそしなかったが、店にいて働いていた、なんの外連目もなく。
踊り子のようなあおいを、武藤は見ることができた。

その後、武藤は大学院を出ると、大手に就職した。
グループでも格上の電機。
高給だ。
しかし武藤は疑問だった。
そして重工の工員にも敬意を払い、納得がいくまで働いたのだった。
こんな大金を受け取る者でなければならないと。
そのような暮らしをした。

おしまい

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