第5回 政党と政党制

1.政党の定義

政党:共通の理念や政策をもち、その実現のために、政権獲得を目的とした政治活動を行う団体。議会制民主主義の根幹を支える団体。「政党は現代政治の生命線である」(S.ノイマン)

(メモ)政党の定義は論者によって多岐にわたるものの「(国民的利益をテーマに)共通の理念をもった人びとの集まり」が最大公約数的な記述になってくるだろう。自由民主主義という文脈であれば、議員とて高々選出された地域の代表(お山の大将)にとどまる現実に対して、政党とは、現に国民的利益を推進していくために、まず集結することで(現実の一個人では成り得ないと言ったところだろうか?)国民全体の利益(国民的利益)を推進する代理人の振る舞いを、それで初めて可能にする機構として特徴づけられるのかもしれない。しかし後述の通り、こうした議論は、佐々木毅に言わせれば「人民による人民のための政治」を素朴に信じる立場であり、さらにJ・シュンペーターに言わせれば、ここで言う「国民的利益」とやらがどうして政治家や政党の人為的なものではないと言えるのか、という批判を浴びるべきだということだ。

政党という概念は政治学の歴史において比較的に新しい概念である。政治理論史において長い間それは徒党や派閥とほとんど区別されずに使われてきた。すなわち、これらは一定の集団がその個人的利益のために、他の人々や社会全体の利益の犠牲において政治過程を支配するものであり、政治社会の分裂の最大の原因として糾弾されてきた。こうした伝統的イメージと政党との間の決定的違いを理論的に確立したのが、E・バークであった。彼の有名な定義によれば、「政党とは、全員が同意しているある特定の原理に基づき、共同の努力によって国民的利益を推進するために結集した人々の集まりである」。ここでバークはそれまで危険視されてきた政治集団を国民的利益の推進と結び付けることによって、単なる私的利益にしか関心のない派閥や徒党から政党を峻別し、いわば公的な義務や責任を一定の原理によって果たす団体として擁護した。(この議論は極めて論争的な主張であった。バークの主張は、当時王権の権力濫用に反対して英国国制を擁護するために団結した議員団を従来の徒党から区別する政治的意味を持っていた。とつづく)【引用『政治学講義(第二版)』佐々木毅 著 p185 政党の概念と機能】

↓集団で物事を議論することには悪い作用もあるという記述。

ここで政治一般や政治家一般について議論するのと区別して、政党政治、その担い手の政党という仕組みの特徴を改めて正確に自覚する必要がある。政党は政治家が集団で政権を目指し、集団でそれを運営しようという独自の仕組みである。そこに強みも弱みもある。それをまず冷静に見分けることが必要である。この問題を考えるとき、私の念頭に思い浮かぶのは次のような福沢諭吉の指摘である。(中略。一人ひとりが集まって物事を議論することは個人で物事を考えるとは様子が違うものだ。それが悪い方向へ働くこともある。と前置きしたうえで)一人一人が才子であるのに集まるとどうして持ち前の知力に不似合いな愚かなことをするのか、というわけである。かくして「日本の人は仲間を結て事を行うに当り、その人々持前の智力に比して不似合なる拙を尽くす者なり」という結論が出てくる。【引用『政治の精神』佐々木毅 著p205 政党政治の独特の構造】

↓後述する政党政治への批判に関連する議論として

人民の意志や一般意思というものが確固として存在し、それが政治を動かすという「人民による人民のための政治」を素朴に信じていいのか。ここでいう人民の意志も一般意思も政治家や政党が人為的に形成したものではないのか、政治を推進するものというよりはむしろ政治の産物ではないのか。J・シュンペーターは自著『資本主義、社会主義、民主主義』のなかで、「人民による人民のための政治」を素朴に信じる立場を痛烈に批判した、政治家の宣伝や操作に対して無防備であり餌食になってきたと。【参考『政治学講義(第二版)』佐々木毅 著 p131 政治家による政治】

2.近代政党の成立背景

政党に類する(政治的)党派は、近代以前の身分制議会にも存在(貴族政党)。それが近代政党になる条件は?

  • 議会の独立性:議会が国権の最高機関となって初めて、近代政党としての役割と存在意義が確立。
  • 代表委任の確立:国民代表の近代議会は、政党にも単なる私的結社ではなく公党としての役割を求める。
  • 多数決原理の確立:常に多数派工作が必要。見解の近い者が結束する効果をもたらす。

3.政党の主な機能

  • 政策形成機能:各政治領域における具体的な施政計画を作成する機能。
    • 利益表出機能:社会に存在する問題やニーズを政治プロセスに引き上げる機能。
    • 利益集約機能:社会の諸要求を調整し、具体的な政策提案にまとめあげる機能。
  • 政治家の人材発掘と登用:政治家に適した人材の発掘・登用・育成。政治的リクルートメント。
      → 政党政治では、政党の活性化のため、新しく優秀な人材調達がつねに欠かせない。
  • 政治的指導者の選抜:政権をどの政党が担当し、誰が政府首班となるのかを決定する機能。
  • 政治教育(政治的社会化)機能:国民に政治に関する情報を提供し、国民の政治的判断力を養う機能。

4.政党の存立基盤と類型

  • 組織母体の歴史的変化に基づく類型
    • 幹部政党(名望家政党):19世紀の制限選挙時代に一般化。地方の有力者(名望家)中心の政党。議員も大半は名望家。歴史的には、かつての貴族や士族、地主に加え新興資本家などの支持を得た保守主義政党や自由主義政党が幹部政党。戦後は中産階級に党勢拡大。院外の一般党員は多くなく、経済団体や有力な職能団体の組織的支持に依拠。
    • 大衆政党(国民投票型民主政党):20世紀の普通選挙時代以降に一般化。一般大衆を組織化して党員の数を増やすことで支持基盤の拡大を目指す政党。院外に全国規模の党組織。一般大衆が党員に。各国の共産党は代表例。
    • 間接政党:幹部政党と大衆政党の中間に位置する組織構造を持つ政党。個人党員をもたない大衆政党で、労働組合や職能団体が組織母体となって形成する政党。イギリス労働党が原型。日本では (旧) 社会党など。(参考)ネットワーク型政党:強固な党組織を持つ中央集権型の政党ではなく、各地域に自然発生的に形成された市民グループなどが地域を越えて連携するなどして政党のようになったもの。
  • 綱領・政策による類型
    ■綱領:政党の基本的立場・理念・活動方針・政策など要約した文書。
    cf. マニフェスト: 政党が選挙前に示す公約。政権公約。政策綱領。

    • 世界観政党(イデオロギー政党):実現すべき社会の理想と国政運営の指針として、何らかのイデオロギーを掲げる政党のこと。 例)保守党、共産党、社会党・・・
    • 単一争点政党:特定の争点に絞って支持を募る政党。 例) 緑の党、女性党・・・
      注)単一争点政党といえども、その他の多様な問題に関する政策を持つ。それなくして政治活動は不可能。
  • 支持層による類型
    • 階級政党:ある特定の社会階級を支持基盤とし、その利益を代表する政党。例)共産党。
    • 包括政党:特定の社会階級、地域、職業、宗教を越えて、国民各層からの幅広い支持を目指す政党。
       →かつての幹部政党の多くは大衆化するにしたがって包括政党になる傾向がある。例)自民党。
    • 国民政党:理念的には、特殊な個別利益の代表ではなく、諸利益相互の対立を調整し具体的な方策を提示することを使命とする政党。国民一般からの広い支持を求める。まさしく近代政党の理念型。

5.政党制

政党制:政治過程に参与する主要政党の数 や各党の主義主張、政党間の勢力関係などで規定される政党政治の態様。
サルトーリの政党制類型:

  • 政党間の競合性(自由選挙や政党活動の自由の有無)
  • 政党間の政策的距離(イデオロギー距離)、以上二つの尺度で類型。(添付資料参照)

6.多党制と連立政権(連合政権)

1)連立政権(内閣)

二つ以上の政党の党員から成立している政権(内閣) ⇔ 単独内閣(政権)
→多党制下の議院内閣制において、単一政党では政権を構成できない際に、連立政権が組まれる。

2)連立政権の規模と安定性
  • 過小規模内閣:過半数に満たない連立内閣 ⇒不安定
  • 必要最小規模内閣(最小勝利内閣):過半数確保に最低限必要な政党で構成される連立内閣 ⇒比較的安定
  • 過大規模内閣:過半数確保に必要以上の政党を含む連立内閣 ⇒不安定
3)連立与党の数と政策の共通性

連立与党の数が少ない方が、政権が安定。
与党間の政策的相違が小さい方が、政権が安定。

7.政党政治への批判

  • 派閥政治への批判 
    主要政党の多くは、有力な党幹部の周辺に非公式の議員グループである派閥をもつ。派閥単位で役職や利権の争奪が行われたり、党内論争で取引がなされる。特に政権与党内の派閥の力学で政治の流れが決まってしまうことへの批判は強く、真の政党政治の阻害となる。かつては多額の選挙資金を収集分配し、相互に選挙協力する組織としても派閥は力を持った。
  • 国対政治への批判
    国対政治とは、与野党の国会対策委員会の間で行われる妥協的な国会運営。互いの面子を重んじ、密室での裏取引や貸し借りで相互利益を保持しようとするので、議場での真剣な政策論争を阻害する悪因とされる。政党には統治機構の一部としての機能だけでなく、社会の利害を代表し調整する側面がある。社会と国との「中間団体」として両者を媒介する存在。近年、市民団体やネットにその役割を期待する向きもあるが、相反する社会の多様な利害を討論や説得、ときに買収や恐喝を交えて調整し集約する営みは、政党にしかできない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA